現れた男は、一言で言えば赤かった。
血を着けているわけではない。ただ、髪の色とか、赤で纏めた服とか。とにかく、第一印象に「赤い」という感情を持ってきてしまうほど、赤の印象が強い男だった。
次いで感じたのは「不気味」という感覚。胸元にあしらった白いフリルはなんとも可愛らしく、スラリとした体型に似合っていると思う。だが、だらだらと歩く姿は、垂れ目なのも合わさってなんともだらしない。そして何より、肩に抱えた大きな槍が、その男を余計に理解しがたい気味悪さを演出していた。
そんな彼はどこか調子外れな、発音さえ独自の言葉に変えてしまったような口調で一人話し出す。
「やあやあ、こんちこれまた楽しそうでゲスなぁ。こういう楽しそうな光景に嫉妬の念を覚えちゃうこのオレとしては、すべてをぶち壊したくなるわけでして!」
「また変なのが来た……」
今度はいったい何なんだろう。戦闘が終わったんだったら、今のうちに野営地で生き残ってる人の治療をした方がいいかな。
いやでも、背中を向けたらその時点で死んじゃいそう。そう思って様子をうかがっていれば、狙撃手もげんなりとした顔でため息を吐くが見えた。
「なに、こいつ? あんたの知り合い?」
「ハスタ。貴様は今回の奇襲作戦、メンツに入っていなかったはずだが?」
「おーっと、人様の口上を遮る礼儀知らずのバカはっけ〜ん。罰として殺しちゃっていい?……脳内裁判で問答無用の惨殺刑と判決を頂きました、頂いちゃいました! 緊急時なので控訴は却下だポン」
急に槍を振り回してこちらに突き付けたかと思うと、今度はそんな事を言い出す。
ダメだ、何言ってんのかわからん。
わからんが、何故だろう。
変なのが来たという嫌悪感と同時に、なんとなく懐かしさを覚えた。
「ハスタ……貴様なにが目的だ? 略奪か?」
「え〜、さてさて問題です。このハスタ様はここへなにをしに来たんでしょ〜か? 1ば〜ん、お花を摘みに。2ば〜ん、夜空がキレイなのでお散歩。3ば〜ん、奇襲部隊への伝令」
「いやいやしかし……3ばん!」
「ぶっぶ〜! まだ問題の途中で〜す。正解は4番!」
ハスタとかいう男は急にピシッと姿勢を正すと、明らかにハズレが並んだクイズを出してくる。
狙撃手も呆れかえっているようだったが、そんな空気を物ともしないのがもう一人……いや、一匹?
とにかくコーダが律儀に答えるが、ハズレと言い放ったハスタはぐっと、槍を狙撃手に向かって突き付けた。
「手応えのないザコ殺しに飽きて、そこのリカルド氏にお相手いただこうと刃物持参で表敬訪問! でしたっと!」
「傭兵部隊の面汚しめ……いいだろう。憲兵に代わってこのリカルド・ソルダートがお前にお灸を据えてやろう」
狙撃手……リカルドさんはふっと笑うと、わたし達を背にしてハスタと向き合う。
それからチラリと、こちらを見た。
「……行け、ガキども。早死にしたくないんだろう?」
一瞬、何の話だろうと思った。
だがすぐに、こいつの相手はしておくから今すぐ逃げろと言っているのだと気付いて、わたし達は慌てて走り出した。
「あの! はい、すみません! ではっ!」
「リカルド先生かっけー!! こ〜んなかっけー男初めて見ました! 見ちゃいました!」
「そして、その先生がお前の見た最後の男になる」
後ろから、やけに冷淡な声とどんどん調子が外れる声がする。
だが振り返らない。
今は何より、生き延びる事が優先だった。
「では、お言葉に甘えまして先生の首、いっただっきま〜す」
ああでもやっぱり、なんか聞いたことあるかも、こんな声。
どこだっけ。彼も、転生者、なのかな。