10-2

異能者捕縛適応法で捕まったうえ、軍の脱走者という肩書まで得てしまった今、家に帰ることはできない。
せっかく脱走したけれどどこに行こう、と途方に暮れてしまったところで、イリアは自分は最初王都の次に、聖都ナーオスにいる転生者に会いに行こうと思っていたのだ、と言ったので、わたしたちもナーオスに行くことにした。
とはいえ、ここからナーオスに行くには峠を越えないといけないし、まずはちゃんと休もう、と野宿することになって。予想以上に疲れていたのか、座り込んだ途端に眠くてたまらなくなったのだが、さすがに最低限の事は知らないとな……と思い、夜のうちに三人に色々聞いてみたのが、昨晩の出来事である。

まあそのせいで目が覚めた時にはすっかり日が昇ってしまっていた。
起きなくちゃ。まだまだ何も解決していないのだから。全然うまく働かない頭でのそりと起き上がって、うんと伸びをしても、やはりまだ疲れているようで体が重い。
でも隣では、同じように寝坊したルカに対して、イリアがお腹空いたと元気いっぱいに騒いでいる。イリアは凄いなあ。これが異世界のギャップかなあ。

「二人とも元気だなあ」
「コーダは腹が減ったぞ、しかし」
「寝言でも散々ご飯の名前言ってらしあもん、ね……ふあぁ」

盛大に欠伸を漏らしてしまって、もう自分でも何言っているかわからない。
必死に起きようと頬を叩いたり首を振ったりしていれば、スパーダが苦笑いしながらわたしの頭をぺしんと軽く叩いてきた。

「おいミオ、お前もその今にも寝そうな顔どうにかしろよ。これからレグヌム峠を越えるんだから」
「わかってるしぃ……でもなんか、昨日基本設定聞いてたら、よく寝れなくて……」

昨晩話を聞いて、改めて理解したのは、次の四つだ。
ウズメの記憶通り、この世界にはかつて、天上界と呼ばれる神の世界があったこと。
そして記憶通り、アスラによって地上との融合が望まれたらしいこと。
けれどどういうわけか天上界は滅び、何故か地上に転生者が現れるようになったこと。
転生者集団であるアルカ教団は創生力を求め、イリアの村を襲ったということ。

転生とか、もっとこう、チートでハッピーな感じかと思ったけれど、どうしてだか天が滅びたせいでわけのわからないことがいろいろと起きるわ、異能者として捕縛対象になってるわ戦争してるわで、全然楽しそうじゃない。
夢と希望のファンタジーはどこにもない。ナーオスで転生者の話を聞きたいと言うのも、イリアが村を襲われた理由である創世力について調べるためだ。
一応全部繋がってはいるっぽいけれど、ややこしいところや思い出せないことも多くて、理解するのでせいいっぱいだった。

「つーかなんだよその基本設定って。お前変わってるよな、転生者の事どころか国についてもさっぱりだしよ」
「どーせ頭悪いんですーぅ。スパーダだって頭悪そうなくせに」
「ほーぉ、言うじゃねぇかミオ」

ギリギリと頬を引っ張られる。
ムカついたからわたしもスパーダの頬を引っ張ってやれば、今度は両手でかかってきた。
負けてたまるか、とわたしも両手で掴む頃には眠気も覚めていて、ただひたすらに頬を引っ張る。引っ張る。
ルカを叩き起こしたイリアが来るまで続けたけど、途中で力尽きてわたし達は手を離した。

「ちょっと、ミオも寝ぼけてるの?」
「寝ぼけてないよ。眠いだけ。イリアは今日は早起きだね」
「お腹すいちゃってさー、やっぱり食べないとねぇ。肉とか」
「イリアまじ肉食系だね……」
「いっしっしっしっ」
「笑い方もやべぇよな」
「スパーダも人の事言えねえっつの」
「なんだ? また引っ張ってやろうか?」
「ルカのでも引っ張ってよ」
「えぇ!?」

べーと舌を出してルカにふれば、何故かイリアまで嬉しそうに彼を追いかけだす。
ちょっと悪いことしたなあと思いつつ、なんか平和だからいっかぁ、と自己完結して。
せめてナーオスに無事たどり着けるまではしっかりしようと、必死に覚悟を決めた。