10-3

どんな山道が来るのだろうと身構えていたけれど、レグヌム峠は緩やかな山道で、至る所に蝶や小さい花を見ることが出来て、結構心が和んだ。
それはわたしの世界のと何も変わらないようだったが、それでもずっと緊張していたせいかとても鮮やかで可愛らしい物に見える。よかった。変な魔物ばっかりじゃないんだ、この世界。あと魔物とかも全然出てこなくて快適。もうずっとこういう移動時間でいい。
吊り橋を渡って更に進んで、それからだんだん下り坂になっていく道をある程度降りたところで、わたし達はふうと息を吐いた。

「ここまて降りればふもとまで後ちょっとだろ」
「コーダ、登ったり降りたりで疲れたんだな、しかし」
「ふぅ……確かに疲れたね。じゃあ、ここらでひと息……」
「みんな。そんな余裕無さそうよ、ほら……」

そうイリアが呟く。
同時に獣のうなり声がして、ぞわりと肌が粟立つのを感じてバッとそちらを向く。
確か道中で見せてもらったモンスター図鑑とやらに乗っていた、エッグベアとウルフという魔物がじりじりと近付いてきているの見えた。

「いきなりの登場なんだな、しかし」
「ルカ、ミオ。疲れてるなら休んでてもいいんだぜ」
「仲間が戦うのに休むわけにはいかないよ!」
「で、ですよねー……」

この中で一人だけ逃げたいなどと言えるはずもなく、わたしはそろりと後ろに下がりながらもそう返す。
舐めないでほしい。わたしは回復天術が一つだけ使えるだけのただの一般人だ。絶対に前には出ない。後ろに逃げる。隠れる。
もちろんそれをわかってくれている三人は、わざわざ庇うようにわたしの前に立ってくれた。

「いい返事だ、行くぜ!」

ダッと地を蹴って、スパーダが双剣を振りかざす。
それからルカが大剣を振り、そしてイリアが銃を乱射しては魔物の動きを牽制していく……悲しいかな。戦場でみんなすっかり戦いに慣れたようで、その動きに無駄はない。
わたしはひゃあと情けなく悲鳴を上げながらも距離をとって、隙あらば三人の傷を癒していく。わたしはあまり大きな傷を治せないから、こまめに術を使用することが大事なのだ。ていうかエッグベアまじこええ。
繰り返していれば、僅かでも回復手段を持っている方が有利だ。やがて魔物はどうと地面に倒れて、みんながそれぞれの武器を納める。

終わった後にはあっと息を吐き出して一人息を整えていれば、今の戦闘についてあーだこーだと話し出す……みんな元気だなあ。
スパーダはルカをアスラに近付いただなんだと誉めまくりだが、こちらはそれどころじゃない。
もう少し、戦うこと、慣れないといけないのかな。慣れたくないなあ。
わたしは深く深く息を吐きながら、でももうなるようになるしかないと、なんとか背筋を伸ばした。