13-2

「ねえ、今のは天術でしょう? あなたも転生者なの?」

戦闘が終わってすぐ、ルカがそう問いかける。
確かに出会った時は全く違和感が無かったけど、術を使えるのは転生者だけだとこの短い間に知った今、そう思うのは当然だ。
けれど、コンウェイさんは決して首を盾には振らず、代わりにわたしを制するように手を翳してから、興味深そうに目を輝かせた。

「そう、これをキミ達は天術と呼んでるの? 天術……悪くない名前だね、ふふふ……でも残念ながら「これ」は天術でもないし、ボクは転生者でもない」
「じゃあ、あなた一体何者よ!」
「ボクの名はコンウェイ。コンウェイ・タウ。ここでキミ達を待ってたんだ」

煙に巻くような言い方に、スパーダは顔をしかめる。
確かにもったいぶった話し方だし綺麗で怪しいけどいい人だよ、と言いたいけれど、たぶん、後で話を聞くから今はおとなしく黙っていて、という意味で手をずっとこちらに向けているんだろうなと察したので、わたしは黙って様子を見守った。

「待ってただぁ? じゃあ最初にオレ達があいつと戦ってたの黙って見てたのかよ。さっさと助けろよ!」
「まあまあ、そうトンがらないで……ミオさんもいたし、キミ達なら手助けがなくてもなんとかするんじゃないかと思ってね。そもそもキミ達がボクの知っているキミ達なら、今ここで死ぬべきじゃない。必ずボクを「そのとき」まで導いてくれるはずだから」
「はあ? おまえさっきからなに言ってんだよ?」
「それに、多少ピンチになってくれないとキミ達、ボクのお願い聞いてくれないだろ?」

ふふ、と笑うコンウェイさんは怪しさ満点だ。
すでにスパーダは警戒心マックスだし、イリアの視線も鋭い。そう簡単に聞いてもらえないと思うけど……何をお願いするつもりなんだろう。

「お願い……ですか?」
「そう。お願い。ボクも一緒に連れて行って欲しいんだ。キミ達の旅に」

彼が提示したお願いは決して無理難題なものではなく、ただ旅について行きたい、というものだった。
わたしとしてはめちゃくちゃ嬉しいけど、どうしてそんなことを望むのだろう。わたしも首を傾げたし、彼を知らないスパーダやイリアは思いっきり顔をしかめた。

「転生者でもねえ、今初めて会ったヤツとなんで一緒に旅しなきゃいけねーんだよ?」
「ほ〜ら来た。だから言っただろ。多少ピンチになってくれないとボクのお願いは聞いてくれないって」
「どういう意味よ」
「だ・か・ら。さっきの敵はボクのおかげで倒せたわけでしょう。……いいかい?「ボクのおかげ」で。また似たような敵が現れたら困ると思うんだけどなぁ。ねぇ? だからお願い。ボクも一緒に連れてって」

つまり、自分の有用性を示したうえで、今後も絶対に必要になるだろうという特別さを見せつけたうえで、交渉に入るためにもったいぶって出てきた……ということだ。
ついさっき、あの魔物の大変さと強さを実感したばかりのわたしたちには、とても効く。ものすごく効く。

「そういうのはお願いじゃねえ! キョーハクっていうんだよ!」
「やれやれ。キミはボクが想像してたのと違ってずいぶん沸点が低いなあ、スパーダくん」

あれ、なんでスパーダの名前知ってるんだろう。
スパーダも困惑しているし、さっきまでの様子を見てても初対面で間違いないはずなのに。聞きたいけど、もう少しだけ我慢しておとなしくする。

「で? ボクも一緒について行っていいってことだよね?」
「……僕はいいと思う」
「あたしもいいわ」
「……わかったよ! いいよいいよ一緒に行こうぜ!」

他の二人が賛同し、さらにわたしが頷くのを見てスパーダはヤケになって叫ぶように彼の同行を認めた。

「ありがとう。今後ともよろしく。さて……じゃあ、そろそろ喋っていいよ」

にっこりと笑ったコンウェイさんは、そのままついとわたしを見た。
それまでわたしを制するように掲げられていた手は、そのままわたしを迎え入れるかのように広げられて、ほら、飛び込んでおいで、みたいな。小さな子供を迎えに来た保護者のような顔で笑いかけてくる。
それを見たらなんだか、今までの怖い思いとか、ちょっと寂しかったあれとか、わけのわからないいろいろとかを思い出して。唯一、わたしの事をわかってるコンウェイさんに会えたことを実感して。嬉しくなって。

「……コ……コンウェイさああああん!!」

いろんな気持ちのままに、がばあっと勢い良くに抱き付いた。