14-3

奥へ奥へと進んで行くと、やがて長い廊下に出た。
そのすぐ横はまた違うエリアになっているようで、螺旋状の通路にところ狭しと丸い何かが並べられている。
丸いボディに、手足をつけたような機械がズラリと並んでいて、長い廊下の端にも同じ機械が静かに佇んでいる。近くで見るとなかなかデカい。すごいな。いかにも戦闘用のロボットって感じ。わたしがこういうロボットもののファンだったら今頃大興奮だったかもしれない。

「なんだこりゃ、デッケエな。中にイスがあるってことは乗り物か?」
「どうやら蒸気機関じゃなさそうだけど……どういう仕組みなんだろ?」
「は? 蒸気機関? 電気じゃなくて?」
「え?」

きょとんとしたルカと目が合う。
あ、そっか。こっちって電気使ってないのか。
蒸気機関とか歴史の授業でしか聞かないから思わず反応しちゃったけど、する方がおかしいのだ。

「あ、あーいや、ここって軍の基地だし、やっぱり普通に兵器なんじゃない?」
「そうね、おっきな武器も装備されてるし」

慌てて誤魔化した言葉にイリアが反応してくれたのを見て、そっと息をつく。
別に、電気とか技術的な疑問、隠す必要とかないのかもだけど……コンウェイさんも話してないし、違う世界の人です〜って今さら言うのもちょっと抵抗があるし、黙っておこう。

「兵器か……こんな鉄の塊、並みの兵士じゃ太刀打ちできねーぜ」
「じゃあ、もしかして転生者と戦うための兵器……かな?」
「ありうるな。う〜ん、おっかねえ……」

生身の人間対機械とか……なんか昔のアニメにそんなんいたような気がする。
つまりそれだけ転生者を危険視して、同時に死んでもいいって思ってるってことなのかな。なんだか考えるだけで重くなる。
ぶんぶんと首を振ってそれを払うと、わたしはそれとなくコンウェイさんの近くに下がった。それを彼はどう受け取ったのか、わたしを一回ちらりと見ただけでみんなに声をかける。

「ねえ、イヤな予感がするんだ。あまりグズグズしてると……」
「……だな。こんなのと戦うハメになる前に早く聖女を……」

スパーダの声を遮って、ウィーンという鈍い音が響く。
なんだか少し懐かしく感じるそれは、わりと日常生活の中で聞き慣れていた機械の起動音だ。正直、今、あまり聞きたくない音である。

「ねえ……何か聞こえない?」

嫌な予感で僅かに震え出す中でなんとか声を絞り出して問えば、みんなもどこか気まずそうに笑みを貼り付けて、音のした方へと目を向ける。
そうすれば、起動音を響かせながらあの丸く大きな機械がズシリズシリと動き出し、わたし達が来た道を塞ぐようにして立ち上がっている様子がしっかりと見えてしまった。

「うわあっやっぱりこの展開!」
「見て、あいつの後ろ、さっきの筒が! 転生者が入ってた、アレ!」
『ビービー! オンセイシキベツヲカイシシマス。』

イリアに言われてその筒を見ようとするが、それより先にそんな甲高い声が機械から流れた。
合成音のそれに音声機能付きかと思わず感心してしまう。でも内容が良くない。これは明らかに、一言でも喋ったらセキュリティーに引っかかってアウトだ。

「お……喋ったぜ。やっぱり人が入ってるのか?」
「筒の中の人が話してるのかしら? ねえ、ちょっと聞こえてる? 筒の中の人! おーい!」
「あ、ちょっとイリア、まっ……!」
『ビービー!オンセイシキベツエラー、シンニュウシャトミトメマス! ビービー! タダチニシンニュウシャヲハイジョシマス!』

みんなにそれを伝える前に、スパーダはおろかイリアに至っては大声で喋りかけてしまう。
当然アウト。機械はけたたましく騒ぎ出した。
あっちゃーと額を押さえるわたしに対し、みんなは不思議そうに首を傾げる。ああ、またしても異世界ギャップ。
けれど背中の武器を装備しだす機械を目にして、ようやく自分達の状況をきっちりと理解したようだ。

「へ……? 侵入者を排除って……」
「ゲッ……オレ達のことかよ!」
「ああんもう! おたんこルカ! あんたのせいよ!」
「ええ!? なんでも僕のせいにしないでよ!」
「むしろイリアが後押し……あーいやそんなのはいいよ! きたよ!」