「……そういえば、アンジュってこの町じゃ有名人だよね? 人に見られて平気?」
「う〜ん、そうね……平気じゃないかも」
「んじゃ、さっさとハルトマンの家にかくまってもらいに行こうぜ」
「そうと決まれば早く行きましょ……ね? お坊ちゃま!」
「……お坊ちゃま? それはどういう……」
「なんでもねぇって! 覚えてろよイリア!」
ナーオスに戻って早々、イリアとスパーダは漫才みたいなやりとりを行う。二人とも戦闘続きで疲れているだろうに非常に元気だ。うらやましい。
わたしなんか前線に出てないのに疲れているというのに……あれかな、やっぱり戦いを知らない現代人とそうでないのの違いなのかな。
「だが、ナーオスでは心配していたほど異能者狩りはしていないのだな」
「え? そうなの?」
リカルドさんの呟きに思わず反応する。
だって、アンジュさんは異能者狩りに遭ったから基地にいたはずなのに。少ないって意味だとしても、なんかちょっと引っかかった。
わたしが疑問に思ったのが伝わったのだろう。アンジュさんは小さく笑って、あくまでも余所と比べて少ないだけよ、と説明してくれた。
「レグヌムよりは活発じゃないわ。大聖堂があるから、王都の影響はそれほど強くないのよ」
「あ、そっか。適応法とかいうのは王様が出したやつだから、教会とは関係ないってこと?」
「そうだ。だが、これからは異能者狩りの傾向は強くなるばかりだろう」
「そうですね……」
「んん……まあでも、とりあえずは自分たちが無事なことを喜ぼうよ! 他の人を考えるにも、自分が無事じゃなきゃ意味ないし」
「そうね……それもそうね」
暗くなってはダメね、とアンジュさんは笑ったけど……でも、やっぱり少し、無理をしているように見えた。
当然だけど、不安なのはわたしだけじゃない。むしろ、何もわからなくてもうお手上げってわたしより、いろいろわかってるだろうから余計悩んでしまうのかもしれない。
わたしがあまり気負わないでいられるのはやっぱり、わからないままでもいいって、ちゃんと最後まで歩けばいいって言ってくれた人がいるからだろうな……と。わたしはみんなの様子を見守っているコンウェイさんに目を向けた。
「あの、コンウェイさん」
「どうしたの?」
「えと、ありがとうございます」
脈絡なく感謝を伝えれば、コンウェイさんはきょとんとする。
当然だけど。でも伝えたくなったときにこういうのは伝えないとね。うん。
「合流してからずっと、さり気なくカバーしてくれてますよね」
「……さあ? どうだったかな」
「うわ、そんな笑顔で何を……わたしだってそれくらいわかりますよ」
わたしがあまり前に出過ぎないようにしてくれたり、庇ってくれたり。
異世界という概念を共有してくれるだけでも心強いのに、不慣れなわたしが何かしでかしてしまわないようにしてくれているのを凄く感じた。
これで勘違いなら、コンウェイさんは罪な男すぎるけど、さすがにそんなことはなかったらしい。コンウェイさんはやれやれと肩をすくめて笑ってみせた。
「ちょっと意外だね。キミ、いっぱいいっぱいだって感じだったのに」
「いっぱいいっぱい過ぎて一周回りましたよ。正直もうあんまり考えないようにしてます」
「うん、ミオさんはその方がいいのかもね」
ぽんぽんと頭を撫でて、そのまま頑張って、と囁く。
やっぱりコンウェイさんは優しくて、綺麗で。うん、なんか、すごく落ち着く。
「……コンウェイさん」
「なに?」
「こう、ハグしてもいいですか」
「嫌だよ」
「けち!」