再びハルトマンさんの家を訪ねれば、行きよりも増えた面子を見て少しだけ驚いたようだった。当然だけど。
お疲れでしょうからゆっくりしてください、と言ってくれたハルトマンさんを含めて改めて自己紹介をしたあと、用意してもらったお茶を飲んで、ふうとみんな息を抜いた。
「……では、自己紹介も終わったところでリカルドさん。私を誰の元に連れて行こうとなさったのですか?」
「そうそう、それよ! まずはその話ね」
「それを他人に漏らすのは守秘義務違反……と言いたいところだが、まあいいだろう」
「いいんだ」
「北の国テノスの貴族、アルベール・グランディオーザという男の元だ。知っているか?」
リカルドさんが示した名前に、アンジュさんは少し考える。
しかしゲームとかでも思うけど、なんだってこう寝返った系のキャラはぺらぺら喋るんだろうね。プレイヤーにとっとと情報を与えるのは大事だけど、信用問題的には大丈夫なんだろうか。
なんてのんきに考えている間に、アンジュさんは首を振る。どうやら心当たりはないらしい。
「アルベールさん……いいえ、面識どころか名前も存じませんね」
「もしかして、お貴族様に密かに見初められたんじゃない?」
「ああ、確かに! アンジュさん、美人だもんねえ。凄い、漫画みたい!」
「まさか……私、テノスには行ったこともないし、知り合いだっていないのよ」
「……美人ってところは否定しねえんだな……」
「それが女子ってやつだよスパーダくん。だいたい、このタイミングじゃわざとらしいよ」
否定が肯定になったりする、美人とかそうでないとかは難しく繊細な問題なんだと神妙そうに言えば、スパーダは「奥が深いんだな……」とこれまた真面目に返してくれた。
あまりふざけないでと隣のコンウェイさんにつつかれてしまったので黙る。
「私の身柄を確保したい理由は、一体なんなのかしら」
「理由は転生者だから……らしい」
「じゃ……じゃあ、なに?そのアルベールってのも転生者を探してるわけ?」
「マティウスと同じだ……」
「マティウス?そいつは何者なんだよ」
「教団の大主天らしいんだけど、そいつにイリアの故郷が襲われたんだ」
マティウスとか言う人の目的はまだよく知らないけど、転生者を確保したい、というのが目的なら、確かにアルベール氏も同じような感じがする。
「やっぱり、アルベールってヤツもマティウスと同じで、創世力を手に入れようとしてるのかな……」
「なるほど……確かにアルベール・グランディオーザの使者は俺が転生者だとわかると質問してきたな。創世力を知ってるか? ……と。創世力とはなんなのだ?」
転生者を軍事力として求めている法律に、創世力とやらを求めているらしい教団とアルベール氏。
うーん、引っ張りだこだけど、軍事力がほしいっていうのと違って後者二つは目的が曖昧でよくわからない。創世力。創世力って、なんだろう。
「ん〜……なんとなく聞き覚えがある気はすんだけどよォ。うまく思い出せねえ……」
「僕も確かに知っているんだ。でも……よく思い出せない。なんだか気持ち悪いや」
「そうか……」
「創世力か……う……アイタタタ……」
「どうしたのイリア? 大丈夫?」
「ん……なんか急に頭痛くなっちゃった。あ……でももう平気」
「やだ、知恵熱?」
「違うわよ!」
そっとイリアをからかいながら、わたしも創世力とやらを考えてみる。
といっても、わたしの記憶の中にそんなものは存在しない。聞いた覚えはある気がするけど、それを説明する言葉は浮かばなかった。前にイリアに聞かれた時と同じである。
重要だった気もする……んだけど。さっぱりだなあとお手上げ状態のわたしたちだったが、ふと、ぶつぶつと呟きながら考えていたらしいアンジュさんがガタリと立ち上がった。
「……創世力! そうよ! 創世力は、天上界滅亡の原因! 大変! 止めないと!」
「創世力が……天上界滅亡の原因……? そう……だったっけ……?」
「そういやそうだったような……」
「俺は、まったく思い出せんがな」
「わたしもさっぱり」
「……で、その創世力とやらが天上界を滅ぼした力だとして、それが何故この地上にあるんだい? 創世力が天上界を滅ぼしたということは、元は天上界にあったはずじゃないのかな」
そっとコンウェイさんが切り出してきた言葉に、それもそうだな、と再びみんなで顔を見合わせる。
「天上界が滅んだから。落っこちてきた……とかかな?」
「そんな物理的なものなの?」
「う〜ん……」
でも確かに、天上界が滅んだのなら、空にはないような気がする。
でも、違うんだよ。違うの。なんだっけ。何が違うんだっけ。なんだろう。うまく言えないけれど、天上界は滅びたけど、落ちたわけじゃなくて、でもわたしは落ちたような、ええっと?
「ふんぬぅ! マティウスのヤツ! そんなろくでもない物のためにあたしの村を!」
「マティウスとアルベールが、創世力を欲しがる理由か……」
「単純に考えれば、兵器として利用するためだろうな」
「よくわからないけど、創世力をそいつらに渡しちゃろくなことにならないよね?」
「やっぱり創世力は、あたし達が手に入れるしかないのよ! マティウスにもアルベールにも渡さない!」
盛り上がるみんなの声を聞きながら思い出そうとしてみるけれど、だめそう。
でも、確かにウズメは落ちちゃった気がするんだよな。何か掴もうとしたけどだめで、それで……ええっと……
「コンウェイ・タウとか言ったな。貴様、転生者でもないのに何故天術が使える?」
「ボクの国では珍しいことじゃないんだけど? そもそもボクの技は正確には天術じゃないしね。それにルカくんたちにとってはボク、あなたよりよほど信用できる人間だと思うんだけどな」
「俺より信用できるだと……どういう意味だ?」
「金で転ぶ傭兵よりはって意味さ」
「なに……?」
「ふふ……ね、ミオさん?」
「は? わたし?」
考え込んでいたところに話しかけられて、ちょっと困る。全然話聞いてなかった。でもそれを素直に言おうと思っても、リカルドさんからも睨むような視線が飛んできてるので言えない。
仕方ない。代わりにとりあえず、自信満々にこぶしを握っておいた。
「わたしは基本的にコンウェイさん全肯定botなので参考にならないと思います!」
「ぼっ……? なんだそれは?」
「ま、まあちょっと、止めなさいってば。急に……そうやってミオ巻き込むのも止めなさいよね」
「俺は俺の雇い主のそばに、正体のよくわからん人物をおきたくないだけだ」
「……なら、その雇い主本人が許可します。ルカくんたちが認める以上、コンウェイさんにも同行してもらいます」
「だってさ」
そう話を切り上げて、とりあえずこれからレグヌムに情報を集めに戻ろうということで話が固まった。