19-1

二度目のレグヌム峠は、前よりメンバーが増えたからかどことなく狭く感じた。
初めてではない道は、終わりがわかっているからか短く感じる。コンウェイさんも一緒だから、前ほど心細くない。素晴らしい。峠を越えるなんてすぐで、とっても気分がいい。
それに、道中でアンジュさんにいろいろと治癒術の使い方を教えてもらったので、前よりファーストエイドの回復量は増えた気がするし、ピクシーサークルの範囲も広がった気がする。

すごい。進歩だ。ちょっとうきうきしながら歩いていると、ふと、イリアが立ち止まって顔をしかめた。
すぐに、隣を歩いていたルカが心配そうに話しかける。

「どうしたの? イリア」
「なんだかここって空気が乾いてるせいか、鼻がムズムズするのよね……」

くしゅんっとくしゃみを二回繰り返す。
なんだろ、こういうのって和む。ちゃんとわたしら生きてるんだなあ、なんて思う。ほら、これまですっごく、RPGみたいな展開だったから。よかった〜みんな生きてる! とか思ってしまうくらいにはミオさんはお疲れのようです。なんて。
余裕ができたのか思っている以上に精神的に参っているのか、自分でもよくわからないままそんなことを思っていると、突然何かが上から降りてきたのが見えた。それは綺麗に着地して、わたしたちの前に立つ。

「呼ばれてないのにジャジャシャジャーン!!」

やけにハイテンションで叫ぶ姿には見覚えがあった。
短い桃色の髪と、フリルをあしらった赤い服。それから長い槍。戦場で見た、あの赤い人だ。
突然の登場にびっくりして、特に何もリアクションできないでいれば、彼はゆらゆらと体を揺らして楽しそうに歌い出した。

「くっしゃみふたつで呼ばれたからにゃ、それがハスタのターゲットさまよぉーっと!」

大魔王かな?

「あんたなんか呼んでないわよ!」
「あらイリア、この方とお知り合い?」
「こんなヤツ、お知り合いになりたくてなったわけじゃないわよ! 声聞いただけで寒気がするんだから!」
「こいつの名はハスタ・エクステルミ。他人を殺めることを自らの楽しみとする傭兵の面汚しだ。西の戦場で俺の元から逃げ出して以来、なにをしていた? そして今、なにをしに現れた?」
「はいそこ! うるさいのでバケツをかぶって廊下に立ってなさいでごじゃるよ!」

大魔王好きなのかな?

「レグヌムの枢密院から依頼を受けて、皆さんを皆殺しに来ました! 来て差し上げたでごじゃるよ!」
「枢密院からの依頼だと……? 貴様には守秘義務という概念はないのかハスタ?」
「フン……貴様にはあえて秘密を漏らすことで口封じのモチベーションを高めるという概念はないのかリカルド先生?」

リカルドさんの真似でもしているのか、静かに言う声にごくりと息を飲む。
声マネが地味に上手い。リカルドさんもちょっとびっくりしてた。

「あの長槍とあの容姿……彼が「魔槍の刺客」か……」
「は? 魔槍?」

コンウェイさんが呟いた言葉に反応しながら、自分も落ち着こうとこっそりと深呼吸をする。
魔槍。あれ、なんか聞いたことがある気がするな。
どこだったか思い出せない。ええと、ええと、うん。よくわからないけど、この人……ハスタって愉快な人だねってことで、今はいいや。考えるのは後でしよう。
それより、とハスタを見る。彼は槍を器用に回して突き付けて、そして愉しそうに声を張り上げた。

「場も温まってまいりましたところで……では、ハスタ、行きま〜す!」

今度は機動戦士のパイロットかよ。
大魔王といい、地味に似てるのが少しいらっとした。