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ふわふわとした黒髪に、ピンクや赤に黄色といった色で統一された服にマントのようなもの。コスプレイヤーかな、と思うようなだいぶ変わった格好のその人、けれどとっても綺麗な顔立ちをしていて、普段周りで見ないような恰好をしていてもすごく様になっている。
中性的な印象のお兄さんは、仕草はとても上品で。わたしに差し出した手を、ぽかんとしているわたしがちゃんと取れるまで、じっと待っていてくれた。いい人、で、いいんだよね。さっき、不思議なことがあった気がしたけれど、こんなに綺麗な人なんだから不思議なことの一つや二つあってもおかしくないのかもしれない。
完全に混乱した思考だけれど、わたしが恐る恐る握れば優しく立ち上がらせてくれて、にっこりと優しく笑いかけてくれた。

「え、と、ありがとうございます」
「いいよ。怪我はないみたいだね」
「な、なんとか」
「なら良かった。傷でも残ったら大変だからね」

なんだろう。普段効かないような気障なセリフだからかな。すごく落ち着かないと言うか、ドキドキする。
まあ綺麗な人だし、これはときめきを感じているのかも。わからない。吊り橋効果って聞いたことあるしそれかも。まあ今はそんなこと言っている場合じゃないんだけど。
とりあえず現在地をよく確認しようと思って、辺りを見回して。スマホも確認しよう、と鞄の中に手を伸ばそうとして、それより先に、男の人にそれじゃあ近くまで送るよ、とほほ笑みかけられた。

「この辺りにいるってことは、王都の人でいいのかな? それとも違う街の人?」
「……は? 王都?」
「ここから一番近いのは王都レグヌム……で間違いないよね?」
「え、ええっと……?」

彼が言い出した言葉の意味がわからなくて、わたしは言葉を詰まらせた。
王都って、王様がいる感じの街だよね? 皇居とか都とかそういう言い方はしても、王都、なんて言い方をすると地なんてなかったと思う。ないよね? 授業では習った覚えがない。聞き逃しただけかもだけど。
……いや、そもそも、さっきのオタマジャクシ。あんなのがいたらもっとニュースになっているはずだし、さっきこの人が魔法みたいな事もしてたのだって、話題になっていないとおかしい。
そう。すごく。すごく、何もかもが、おかしいのだ。わたしの持つ常識を全部無視して、全然違うものに変わってしまったような。違う世界に行ってしまったようなちぐはぐさがある。そんな漫画とか小説、今すごい流行ってるもんね。あれ。でもわたし別にわたしのままだから転生ではないな。え? どういうこと?

黙り込んでしまったけれど、混乱しているのが表情でわかってしまったのだろう。彼は同じように首を傾げた後、ん、と何かに気付いたように目をわずかに見開く。そうして、考えるように顎に手を当ててわたしをじっと見た。

「ボクはコンウェイ。キミは?」
「あ、深魚です。浅神深魚」

さすがに名前はわかると自己紹介をすれば、コンウェイさんは何かを考えるように顎に手を当てる。どうしたんだろう。ここで黙り込まれるとすごく不安になる。

「……あの物語に該当する名前はない。むしろ、このパターンは……」
「あの……コンウェイさん?」
「ミオさん。ひょっとしてキミは、“地球”という世界を知っているのかな」
「知ってるも何も、地球ってここじゃ……」

ないの?って聞く前に、コンウェイさんはゆるゆると首を振った。
わあ、嫌な予感。

「ここは地球じゃない。そこには存在しない魔物や魔術なんか存在する、異世界さ。もちろん、夢じゃないよ」

その予感通り、まるで物語の主人公になってしまったような情報が飛び出してきて、わたしは目の前がくらりとした。