19-3

「クソ……ターゲットは逃亡した転生者ひとりだと……話が違うじゃねぇか……リカルドはともかく全員転生者レベルかよ……」

ぼそぼそとハスタが呟く。
よく聞こえないが、彼は次にこちらに視線を向けたものだから目があった。彼は、わたしに何か見覚えでもあるのだろうか。戦闘中と同じ、少し怪訝そうにわたしの顔を見ては何度も首を傾げる。

「むむ……むむむ……やっぱりお酒飲んじゃう? むしろハスタくん飲んじゃうんだニャ〜ン?」
「い、いやだからわたし、まだ未成年だ……ニャ〜ンとか似合わねえなおい」
「僕の胞子で幸せにしちゃうニャ〜ン」
「なんでそんなに突っかかってくんだよっ?」

よくわからん。凄くよくわからんが、なんとなく立ててはいけないフラグを立てたような気がする。
ハスタは急にすっくと立ち上がると姿勢よく気を付けのポーズをし、パチンと片目を瞑ってみせた。

「はい、ハスタくん残念! でもハスタくんのいいところは引き際の良さですね! わしゃもうか〜なわんよ! ハイチャラバーイ!」

まだ大魔王引きずるか。
彼は現れた時と同じように高く跳んで、すぐに視界から見えなくなった。
リカルドさんは後ろから撃とうと構えていたが無理だと悟ったのだろう。やがて銃を下ろして、げんなりとため息を吐いた。

「相変わらず逃げ足の早いやつだ……」
「ねえ、ハスタが言ってた「枢密院」って……」
「教団のバックにいると噂される組織だ」
「かつて教団の権力が増大した頃、国政の相談役として設立された機関だそうよ。代々教団の上層部がその座に就いたらしいんだけど、今はもう名前だけの集まりのはず……」

アンジュが不思議そうに首を傾げる。
名前だけだから、彼女ももうあまり気にしないような場所なのだろう。それなのにその名前を聞いたということ自体に驚いているようだった。

「そいつらがハスタをオレたちのところへ?」
「じゃあ全然名前だけの組織じゃないじゃないのよ」
「教団のマティウスと枢密院が一緒になって、創世力を狙ってるってことなのかな?」
「うーん……そのあたりも含めて、早くレグヌムで情報を集めましょ」

調べることが増えたわ、と言うアンジュにわたしたちは頷いて、少し早足に峠を歩き出した。