20-1

「ご無沙汰じゃの、バルカン」

暖簾をくぐって中に声をかければ、そこでは一人の神がどっかりと座っていた。
赤い肌と力強い瞳を持つこの神は、目の前の槍を見つめながら言葉だけを返す。

「おお、ウズメか。どうした、こんな場所まで。いい酒でも入ったか?」
「まったく、お主はそればかりじゃのう……まあ、実際にいい酒が入ったから来たわけじゃし、その通りなんじゃがな」

そう手に持っていた酒瓶を振れば、そんな雑な扱いするなと少し慌てた声と共にこちらへと振り返るのが、見た目にそぐわぬ愛嬌を感じて面白い。
我ははははと笑って適当に杯をとると、酒を注いでバルカンに渡してやる。軽く杯を鳴らして、それから我も目の前にある槍を見た。

「それは、新しい息子か?」
「ああ、そうだ。ひたすらに強さを求めた……最強の息子だ」

妖しく輝いて応える槍は、とても大きく鋭く、確かに攻撃という力を追求したように思えた。
それはやがて魔槍とでも呼ばれるようになるのだろう。彼が強さを追い求め造ったのであれば、間違いなく、最強の槍だ。

「最強、か。正直、強さとかより、もっとこう、美しさで勝負してほしいものなのじゃが」
「ハハハ、お前は戦わずの神だからなあ。だが、こちらは鍛治の神。美しいだけで何も切れない鈍らより、強い武器を作るのは自然。そして、戦いがなければ生きられん存在だ」

ハハハと笑うバルカンは、決して悲観しているわけではない。
むしろ誇りがあった。自分が生み出す子供たちへの愛と喜びと、彼らを生み出せることへの誇りが。
だからこそ、彼も彼の子供も我は好きだった。祭りは、祈りは、そうした心から生まれると知っているから。

「そうだ、ウズメ。せっかくだ。この新しい息子に名前を付けちゃくれねえか」
「我が?」
「最強だろ?」
「わけがわからん。だがそうじゃな……」

思いついた名前を口にしながら、かっこいいだろう? と笑えば、バルカンもかっこいいなと笑って。
気に入ったとばかりにきらめく槍の柄を、そうっと撫でた。