「コンウェイさんって、困った人を放っておけないタイプなの?」
住宅区を歩きながらルカが問いかける。
先ほど男の子に付き合ってあげたのを見てそう思ったのだろう。まあ確かに、わたしたちの旅に付いて来たり、途方に暮れたわたしを助けてくれる姿は、非常に世話焼きに見える。
でも、誰も突っ込まないのをいいことに、異世界から来ましたとか言わないし。何を聞いてものらりくらりと交わすし、謎だらけだ。
「ボクがしたいのは魂の救済だよ」
「え?」
「ボクの手は二つしかないから、二つしか救えない。だからルカくんやミオさんたちの分はないんだ。ごめんね」
今もほら、にっこりと笑って、否定も肯定もしない。というかこのたまに出る厨二臭はなんなんだろう……本当に不思議な人だ。
この不思議な魅力、病みつきになるよね、なんて思っていると、ふと、どこからからすごくいい匂いがしてくる。あったかくて、美味しそうな匂い。なんだろう。あのそれなりに裕福そうな、でも派手ではない家の方からする。
「なんだろう。いい匂いがするね」
「いつものスープの匂いがする。母さんのチーズスープ……」
「なんだ貴様等! 今すぐ出て行け!」
「あれは、父さんの声?」
慌ててその家の窓に張り付いたルカに、なるほどここがルカの家かと納得する。
本当は中に入って確認したいだろうに、それはダメだからと我慢して、窓からのぞいているらしい。わたしも覗こうとしたけれどちょっと見えないので、代わりにコンウェイさんの隣に寄って耳をすませた。
「こちらは法に則って捜査しているのだ!」
「その非協力的な態度、息子の身を隠してると思われても仕方あるまい!」
「ほほう? ミルダ家に異能者がいると騒ぎ立てる迷惑な兵士がいて困る……そう上の方に申し立ててもいいのだぞ?」
「ど……どういう意味だ?」
「おいお前、所属と名前を言え。王都の警備長、ベルフォルマさまのお耳に入れておくとしよう」
「お……おい……どうする?」
「うむ……」
「つまらない詮索で職を失いたくはあるまい?」
「えーっと……異常なしですな」
威圧的な声に気圧されて、とぼけた声が聞こえて、突然ルカが窓を離れて家の影に隠れる。どうやら家に乗り込んでいた兵士が出て来るらしい。
このまま立ち聞きしてたらめちゃくちゃ怪しい人じゃんと慌てると、コンウェイさんがわたしたちの手を素早く引いて、立ち話を楽しむ通行人のように装う。
背後で扉が開く音と、遠ざかる足音。
コンウェイさんはそれが完全に反対方向に消えたのを確認してから、また窓へと近付く。ルカも今度は中が見えるようにスペースを開けてくれていて、わたしも中を覗きこむ。
そこには、ルカに似た髪色をした厳しそうな父親と、表情がルカそっくりな母親の姿が見えた。
「あなた……大丈夫ですの? こんなことして……」
「構うものか。息子を罪人呼ばわりされては黙っていられん。それに、あんな無礼な兵士にうろつかれては、気の弱いあいつのことだ。帰って来づらかろう」
「そうね……あの子、いつ帰って来るのかしら」
「部屋に引きこもってても、食事時にはちゃっかり食堂に現れるルカのことだ。このスープの匂いを嗅げば、ひょっこり戻ってくるさ」
「そう……ですね。でも、もう何日もこのスープですけど」
「毎日飲まされていい迷惑だ。おかげで好物になってしまった……まったく、早く帰って来んかバカ息子め!」
「父さん、母さん……」
小さく呟いたルカの声は泣きそうで、わたしもつられて目の奥が熱くなる。
あまりみんなの家族のことなんて聞いたことなかったけど、両親の優しさを強く感じてそっとルカの肩を叩いた。
「何はなくとも、親の愛か……」
「親……」
「あっれ? ルカじゃないか!」
「ホントだ。今までどこ行ってたんだよ!」
突然声をかけられてびくりと肩が震える。
まさか兵士、と身構えるが、振り返った先にいたのは背の高い少年と小太りの少年の二人だけだった。
態度からして、おそらくルカの友達だろう。彼も二人の姿を見て一瞬顔を強ばらせたが、すぐに名前を呼んだ。
「エディ、ニーノ……」
「お前がいないおかげで、宿題写す相手を探すのに苦労したんだぜ? でも、これで安心だな」
「そうそう。おれたちお前を頼りにしてんだぜ」
友達というかいじめっ子かな? でも怖がってる風でもないし、ホットドックをよく買いに行って渡していた相手とかかな?
彼らはわたしたちのことは目に入らないように、よかったあ、とにこにこと近付いてきては、そういえば、と首を傾げた。
「……ああ、そういやルカが異能者だなんていう噂が流れてんだよな」
「そんなわきゃねーのによ。異能者ってすんげー強いんだろ? ルカが異能者のわけねえよな」
「そうだよ、この前のフットボールの試合だって、絶好のポジションにいたお前に絶好のパス出したのにさ。お前、ボンヤリしててシュートチャンス逃してたし」
「そう……だったの?」
「そーだぜ? せっかくお前をヒーローにしてやろうと思ってたのにさ」
「ボンヤリしてるからなあ。いつも宿題見せてくれる礼のつもりだったんだぜ? あそこでシュート決めてたら、次からみんなお前を誘ったろうに」
彼らの言葉に、ルカの瞳がじんわりと濡れる。
いつもの町、いつもの生活。そこから飛び出すことになって、そこにあった優しいものに気付いて。きっと、胸がいっぱいになっているのだろう。
それでも涙は零さずに、そっか、と笑う彼に、友人二人もなんだか照れくさそうにしていて。
「あ、異能者狩りの兵士だ」
けれど、片方の少年がこちらに歩いてくる兵士を見てそう言ったことに、ルカは明らかに表情を変える。まずい、どうしよう、と目に見えて慌てた彼を見て、二人はすぐにルカを隠すように兵士の前に立った。
……どうやら時間稼ぎをしてくれているのだろう。兵士の質問に適当に答えながら、後ろの手がはやく行け、と動いているのを見て、今のうちにここを離れようと三人で頷く。先ほどのコンウェイさんに倣って、さも害のない通行人Cですみたいな顔をして歩こうとして……ルカが一人、ダッと走り出した。
それはもう、やましいことがあるんですと言わんばかりに。
当然だが兵士はそれに気付いて、ついでにわたしの顔もチェックして走ってくる。
ああもうバカ。結局三人で走り出した。