22-1

下水道の先に広がる鍾乳洞は、思っていたよりもずっと綺麗な所だった。
本物を見たのはもちろん初めてだけど、なんだか懐かしいとさえ感じる。わたしがいた世界でテレビに映ったそれと違いがないからかな。それともこれは、ウズメだった時の記憶だろうか。
昔、この場所にいたことがある気がする。ここで、天に懺悔を、感謝を、祈りを捧げる人たちを見つめていた気がする。

「……いやなんか、もうすっかり慣れたけど。前世の記憶があるって、変な感じ」

わたしは生まれた時から浅神深魚だと認識して生きてきたので、こうしてたまにウズメだった時の感覚を体験すると、すごく違和感がある。わたしじゃないのに、わたしのことだという実感があるから、変な感じ。
そりゃあ、だんだん今の自分なのか前世の自分なのかわからなくなって、混乱もする。難しいな。ちゃんと、自分のままでいたいな。

ちょっと沈んでしまいそうな気持に首を振って、よし、と意気込む。とりあえず、目の前のことから片付けよう。未来のことは未来のわたしが考えるだろうし。
わたしは、非戦闘員だからとわたしの隣を歩くエルマーナに向き直って、ねえねえ、と話しかけた。

「ねえ、エルマーナ」
「ん? なんや姉ちゃん、抱っこしてほしいんか?」
「いやいや違うって。あの短時間でわたしは君の中でどんなキャラになっちゃったの」
「んー、なんやろねえ。こう、昔からの友達っちゅうか……面倒見てやらなあかん思う感じ?」

どんなだよ。
自分より年下の女の子にそう思わせるくらい、わたしって雑魚っぽいんだろうか。

「確かに。ミオさんは面倒見てあげないといけないって思うよね」
「……コンウェイさん……わたしは堂々とあなたの妹を名乗り出しますけどいいんですか?」
「それはまた、ずいぶんと変わった脅迫だね」

会話に参加してきたコンウェイさんを真顔で見つめながら言うと、彼は涼しい顔で笑い返してくる。
これは妹と名乗っていいということか? 都合よく受け取っていいのかな? 考えていれば、やがてエルマーナが背伸びをしてわたしの頭を撫でてきた。

「どうして?」
「なんやろなあ。素直でない子ぉを甘やかしたい気持ちになるねん」
「わたしはものすごく素直に正直に生きているんだけど……?」

エルマーナにとってわたしって、本当にどんな子に映ってるんだろうか。
ふと、自分を撫でる手がひとつ増えていることに気付いたので隣を見ればコンウェイさんも参加していた。
エルマーナと一緒に頭を撫でる顔は完全におもしろがっている。

「わたしは二人にとって赤ちゃんってこと……?」
「別にそこまで思ってないけどね。無理しなくていいよ、と思っているわけさ」
「え……」
「言ってるだろう。面倒見てあげるって」

ぽんぽん、と最後にもう一度撫でてから笑ってみんなの後ろに続いていく。
その背中を見送って、ほう、と感動したようなため息が出た。
エルマーナも思わずわたしの手をぎゅっと握ってコンウェイさんの背中を凝視する。

「ほぉ〜、兄ちゃん、かっこええなあ。姉ちゃんの恋人なん?」
「こっ……違うよ。お兄様」
「さっき脅迫に使った時点で冗談やろ。でも、ふ〜ん、へ〜え、なるほどなぁ」

ニヤニヤとこちらを見られて、なんだか居心地が悪い。なんだろう。前にイリアにも言われたけど、そんな、恋愛感情なんかない……はずだ。
そりゃあ憧れるし頼りになるし、かっこいいし今もときめいたし落ち着くしドキドキするけど。これは完全にひな鳥の刷りこみだと思うし、恋ではない、と思う。わからない。好きだなーとは思うので。
というか、面倒見てあげるって、凄い年上の余裕を感じるな。うん、やっぱりコンウェイさんがいるって思うとそれだけで心強い。
まだまだ頑張る、と密かに拳を握ると、隣でわたしを見つめていたエルマーナがにっこりと笑った。

「あーなんやろ。なんか嬉しいような寂しいような感じやわぁ。姉ちゃん、ああいうんにはちゃんとアピールせなあかん思うよ?」
「だ、だから……違うっての……」

なんでそっちに持ってくのさ。
そう呟いたけど、エルマーナはすっかり思い込んでしまっているようだった。