鍾乳洞を進んでいくと、やがて祭壇のようなものに辿り着いた。
決して最奥ではないこと場所に設置される祭壇は、杯のようなものを安置しており、わりと寂れてはいるが本格的なものだったことが伺える。
「ねぇ、これなんだろう」
「これはおそらく祭壇ね。刻まれている文字は随分古い形式のものみたい」
「文字が古いってどういう意味だよ? あんなのに新しいとか古いとかあんのか?」
「天から下ろされた地上人も、しばらくは天上界で使っていた文字をそのまま使っていたの。でも時が経つにつれ、少しずつ形や読み方が変化して今の文字になったの。ここに刻まれている文字は、天上界で使われていたとされる文字にかなり近いものね」
言われて目を凝らせば、確かに祭壇には文字が刻まれていた。
かすれていてよく見えないし、こちらの世界のものであるからわからない……はずなのだが、見た瞬間になんとなく理解できた。英語なんかを読むのと同じ、ちょっとあやふやだけど意味はわかる、みたいなそんな感覚。
「……不思議だな。見慣れぬ文字だというのに、あらかた意味がわかる」
「おそらく、前世の記憶で文字を読んでいるんでしょうね」
「だから読めるんだ。なんか便利」
他の文字もそうなら良かったのに。そうしたらもう少し、試験でいい点数とれたと思うんだけどな。
「「我らは罪を悔い改めて反省を終えた。だから天に戻してくれ……」といった内容の祈りの言葉のようだな」
「このような祈りの言葉は、教団が現在のように組織化される以前の、原始的な宗教の中に見られます。この大きさから見て、かなりの規模の信仰を集めていたようね」
「でも、今はもう、完全に忘れ去られてるみたい……どうしてかな?」
「ふふ……その間の宗教的歴史を語るには、教団史書を五冊分は講義しないとね。イリア、あなた興味ある?」
「ほら、誰か、アンジュの講義受けたい人!」
イリアが目を合わせてきたからさっと逸らす。
アンジュさんには悪いけど、わたしそこまで勉強好きじゃないし。好きでも五冊分なんて嫌だし。
そのまま勉強と言えば、という流れでルカを見る。他のみんなも同じ考えだったようで、自然とルカに視線が集まった。
「……ええ、僕!? いや、僕もちょっと……さすがに本五冊分は……」
「そうよね……私の話なんてつまらないものね……」
「ええ!? いや、そういう意味じゃ……あのさ……え〜と……あ! 僕、ここってさっきから懐かしい感じがするんだ! ねぇ、みんなもそう思わない?」
明らかに話を変えてきたが、とりあえず頷いておく。
入った時から感じていたが、懐かしいと思ってる……テレビで見た鍾乳洞みたいな意味で受け取ってたけど、どうやらみんなも同じだったようだ。
「あ〜そう言われてみればあたしも〜」
「感傷的にはならん質だが、確かに俺も……」
「コーダは? コーダは感じないぞ? 仲間外れかしかし?」
「不思議だね。これって前世に関係あるのかな?」
「そうね。天上界の雰囲気とどこか近いのかも。大昔の地上人が、この祭壇に求めたように」
そっか。やっぱり、ここと似たような雰囲気をわたしは……ウズメは感じて生きていたんだ。ううん、それだけじゃない。ウズメは、こういう祭壇や祭舞台のある場所に降りて祈りを聞いたことがあった。
ぼんやりと、かつての日々を思い出すような感覚で、記憶を追いかける。ウズメができるのは祈りを聞き、循環させることだけ。決して、彼らの手を引いて天に戻すことはできない。けれど、ここで楽しく暮らしていけるようにと間を取り持ったこともあるし、地上で住むことを受け入れた人たちが、やがて恵みに対し感謝をささげるようになったのを見たこともあった。
そう。ウズメは、地上が好きだった。
「なぁ、はよ行こうや。みんな何してんのん?」
「ああ、ごめんごめん。話し込んじゃったね。さあ、みんな行こう」
エルマーナに急かされて祭壇から離れる。
ふと、いつもなら先頭にいるスパーダがまだ祭壇にいるのを見て立ち止まると、彼はガシガシと頭を掻き乱した。
「オレ、あんま懐かしく感じねぇんだけどな。もしかしてオレって、ネズミザル並み……? あはは……いや、そんなことねぇよな……?」
「若いからじゃない? 比較的」
「そ、そうだよな。アスラとかも若い方だったけど、何千年とか生きてるヤツらから生まれたしな。ウズメなんて神の中でもバ……」
「ふん!」
「いってぇ! 叩くなよ!」
「言い返せないけどムカつくこと言われると思ったから」
そりゃあ、アスラを拾い育てたヴリトラという神と友人で、小さい頃からアスラを弄り倒していたのだ。ウズメは結構、かなり長生きしている神だ。
でも、年齢のことを言うのはいつの世もよろしくないよね、ということで。わたしはスパーダの頭を叩いてちょっとひりひりする手を振りながら、さっさと歩き出した。
「……ま、若いからアスラに唯一思い入れがあったんだけどな」