「退けーっ!! ラティオ軍、全軍撤退! アスラとヴリトラだ! ラティオ軍、全軍撤退!」
「死にたくなければ地の果てまで逃げろ! 撤退! 撤退〜っ!!」
「聞けぃ! 我がセンサス軍はこの一戦をもって、天上界の統一を宣言する! これ以上の戦闘に意味はない! ラティオの民よ! 抵抗は無意味だ!速やかに降伏せよ! このアスラ、ラティオの全ての民を手厚く遇することを約束する!」
天高く剣を掲げ、高らかに宣言する男の声が響く。
その声は長く続いた戦いの終わりを告げるために一晩にして天上界全土へと駆け巡っていった。
男は、アスラは、戦後の静かな興奮を帯びた景色を天空城のバルコニーから眺めながら深く息を吐く。
傍らに控えたサクヤと、彼の肩に乗せられた剣デュランダルと共に戦の終わりを肌で感じていた。
「これで戦も終わりか……寂しくも思うが、これもまた世の定め」
「アスラさま……此度の天上界の統一、心よりお喜び申し……」
「アスラさま!」
片膝をついたサクヤの言葉を遮って、イナンナが駆け寄ってくる。
戦いに出ていたわけではない女神だが、アスラの天上界統一には興奮が隠せないようだ。赤く頬を染め上げてアスラを見上げる。
「アスラさま、ついに、天上界の統一を……」
「おお、イナンナ! イナンナ。これでお前にこの世界が、かつての美しさを取り戻す様を見せてやれる。して、ウズメ殿はどこに?」
「ウズメさまなら「別に戦に一区切りついただけで目的達しておらんじゃろ小童」と仰って、まだ……」
「ははは! ウズメ殿らしいお答えだ!」
ここにいない祭事の神の言葉を聞いて彼は豪快に笑う。
そう。まだだ。統一を成しただけではまだ、使命を果たしたわけではない。
再び強く前を見据えたアスラに、それを頭上から見守っていた龍がゆっくりと降りてきては微笑んだ。
「ほほほ……嬉しきことよなぁ、アスラ。わしのような年寄りの昔話から、このような偉業を成し遂げるとは」
「いいえ、母上。我が使命は未だ成らず。母上がかつて生きたあの世界は……おお、オリフィエル殿。此度の戦、貴殿の采配、見事という他言葉が見つかりませぬぞ」
「アスラ殿……」
歩いてきた男にアスラは声をかける。
だが彼の表情は、この場に似合わないほど固く暗い。
「いかがなされた? 我がセンサスの戦勝を祝うにしては、お顔の色が優れぬご様子」
「一刻も早くヒンメルの救出を願いたい。あの子は私を待っている。あの子を救い出すことができなければ、私がラティオを裏切りセンサスにくみした意味がない」
「おお! 約束しようオリフィエル殿! もはやラティオの元老院など、我らの前にはまさしく無力! 貴殿の愛弟子、ヒンメル殿。我がセンサスの全軍をもってお救いいたしましょうぞ!」
「ありがたきお言葉……」
「センサスの全軍に伝えよ! 未だ残るラティオの元老院どもから、ヒンメル殿をお救いせよ!」
「アスラ殿。心より感謝いたします」
「オリフィエル殿。感謝など無用。我の望む完全なる世界を創造するために、ラティオの元老院は抹殺せねばならんのだ。そして我は天上界を完全に統一し、手に入れねばならぬ。ケルベロスの承認を得て……」
アスラは宣言する。
高らかに。高らかに。
自分をもう一度奮い立たせるために。
「創世力を!」