エルマーナの気迫に圧倒されて全員が構えた。
いきなり攻撃されるのか、と思って、構えて……だが何も起こらない。
「あははははっ! ひっかかった! ひっかかった! 冗談やがな冗談! ウチはヴリトラ本人やっちゅうだけで、別に龍とはちゃうっちゅうねん! あんたらアホか! あはははは!」
大声で笑い出すエルマーナに思わずホッと息が零れる。
いやうん、そうだよね。そうなんだけど、ほら、気迫とかあったから、なんか、凄い技とか飛んでくるのかなって……
「で、ですよねー」
「てめぇ! 脅かすんじゃねーよ! 寿命縮むだろうが!」
「あ〜面白かったぁ。ウチの体が小さいからっちゅうて、なめとったらあかんで兄ちゃん。ほんで、自分は誰なん? アスラ?」
「アスラは僕だよ」
「あんたかいなぁ! なんや、アスラと違ぉてほっそい体しとんなぁ。まあええわ。これからたっぷり食べな? ウチがたらふく食わせたるさかい」
ルカの体をバンバン叩きながら言う。
完全におかんって感じだけど、エルマーナよりルカの方が大きいし金持ちなあたりがなんだか悲しい。
「ちょっとちょっと! ホントにあんた龍だったの?」
「そうそう。デッカい体で空飛んで、ラティオの連中蹴散らすんは気持ち良かったなぁ! 自分あれか? アスラのそばにくっついとるちゅうことはサクヤか?」
「ちっがうわよ! なんか間違われるのムカつくんだけど!」
「なんやイナンナの方かぁ。仲悪いんは相変わらずやねんなあ」
「ヴリトラは、転生しても器がでっかいねぇ」
「お、そういう姉ちゃんはやっぱりウズメか! なんやなんや、わっかりやすいなあ!」
ヴリトラってウズメにとっては一番仲がよかった相手だったけど、一目でわからないものだなあ。いや、他の人も全然わからなかったけれど。彼女ですらわからないということは、わたしは今後誰に出会っても「もしかしてあの人? あら懐かしい〜!」っていう態度はできないんだろうな。
「まあともかく。昔から見とった夢にはちゃんと意味があったんやねぇ。それがわかっただけでも、ウチ嬉しいわぁ」
「あれはただの夢じゃないよ。前世の記憶なんだ。僕たちは前世で同じ世界に生きてたんだ」
「へぇ〜、あれ前世やったんかいな……なんや納得やわあ。なるほどなぁ。ちょいちょい夢で見ててんけどな。最後はな、いっつも寂しなんねん」
「寂しい? どうして?」
「天上界いうやったかいなぁ。あの世界滅んでまうねんけど、ウチひとりだけ取り残されんねん……み〜んな死んでしもて、ウチだけたったひとり……ず〜っとず〜っとひとりやってん」
少しだけ俯いて話を続ける。
そうだ、ヴリトラは古代からの龍神という特別な存在だったのもあって、非常に強い力を持っていた。それは直接的な強さでもあったし、体の丈夫さでもあった。
だからこそ、天上界崩壊でほとんどの神は死んだとしても、彼女は死ねなかったのだろう。寿命だって彼女は他よりずっと長かったから、長い間、一人でいるしかできなったのだ。
「最後の最後までアスラの名前呼んどったなぁ。アスラぁアスラぁいうて。ほんで、そのまま……何百年……いや〜下手したら何千年ひとりぼっちやねんなウチ。ほんで、この寂しいんが永遠に続くんかいなぁ思たらたいてい目ぇ覚めんねん」
「ヴリトラが……そんなに僕のことを……」
「ま、目ぇ覚めてもウチがひとりなんはあんま変われへんねんけどな。今までこの話、誰にいうても信じてもらわれへんかったし」
「ずっと寂しかったのね……おいで、抱っこしてあげる」
「……ん、ええってええって! ウチ今嬉しいねんで? なんか友達できたっぽいし……」
「じゃあ、寂しくなったら言うといいよ。アンジュの抱っこ気持ち良さそうだし、寂しくなくてもさせてもらうといいよ」
「ほんま? じゃあ……また寂しなったら抱っこしてな?」
少ししんみりしちゃったな。
ええと、空気を変えないと……なんて思っていたら、リカルドさんがそわそわとし出したのにアンジュさんが気付く。
問いかければ彼は気まずそうに目を逸らして、最奥の一点を見つめた。
「いや……ここへ来た目的のキノコをコーダが見つけて……食ってるんだが……」
「マズいなしかし! マっズいなー、やっぱキノコは汁に入れるのが一番なんだな」
「何しとんねんワレェ!」
「リカルドさん止めなよ!」
思わずエルマーナが飛び出して、そのままの勢いでコーダを蹴り飛ばした。
「人の話聞いてへんかったんか! めっちゃ高いキノコや言うとるやろ! とりあえず残っとる分渡しぃや」
「きゅ〜……ぼ……暴力反対なんだな、しかし……」
思わず苦笑がもれて、これ以上食べられる前にと退散することにした。
リカルドさん止めればいいのに、結構うっかりさんなんだろうか。