今度こそ下水道の孤児院に戻ってきたけれど、そこには誰もいない。
そして、一緒に暮らしてる子供たちがもう帰ってきててもいい頃なのにと首を傾げたエルマーナが、上が騒がしいと言って慌てて飛び出していったのはついさっきの話だ。
わたしたちも慌てて外に出ると、ちょうどそこで二人の子供を捕まえた大人たちと鉢合わせた。
貴族然とした男と、ちょっと強面の大男。
彼らが子供を乱暴に縛りあげているのを見て、エルマーナが声をあげた。
「ミケーレ! ガエタノ! 大丈夫かー?」
「おうおう盗人どもの親玉が登場か。貴様の子分どもは捕まえたぞ。もう観念するんだな」
「はなせー! はなせよー!」
「いい年した大人がなにやってんのよ! 子供たち放しなさい! 泣いてんじゃないのよっ!」
「黙れ小娘! お前もまとめて処分しちまおうか! ああ?」
「その子たちが何をしたと言うのですか?」
「何をしたかはそこのチビに聞いてみな! 三日に一度はうちの店に盗みに現れて……今までどれほどの被害が出たか!」
どうやらこのおっさんは商人らしい。ぼかしていたけれど、やっぱりここの孤児たちは盗みを繰り返してなんとか生きてきたのだろう。それは生きるために仕方のないことだけど……盗まれる側にとってみれば冗談じゃない。
ようやっと盗人を捕まえることができたと笑う彼らに、返す言葉が見つからない。
「おっさんよぉ。参考までに聞くけど、その子らどーなるんだ?」
「知れたこと! ガルポスの農場に連れて行くんだよ! あそこは労働力が貴重でな。子供を連れて行くと金になるんだ」
「ええ! その子たちを農場に売るの? ひどい! そんなのひどすぎるよ!」
「ふん! 薄汚いコイツらが悪いんだ! さっさとくたばってくれれば街も綺麗になるんだがな」
「ちょっと、そんな言い方はないじゃん!」
そんなに言うなら手をさしのべて保護してやれよ! と叫ぶが、誰がそんなことと吐き捨てられて終わる。
まあ、そうだよね。難しいのはわかるけどさあ。こういう時こそ国とが大人が頑張るべきじゃない? 転生者とか捕縛してないで、こういう生活基盤をなんとかしてほしいよね。
「……そんなアホな。ウチらかて、好きで生まれて来たんちゃう……ちゃうのに……ウチらのこと、こんな風にしたんは、あんたら大人やんか……」
もちろん、エルマーナは子供たちを諦めるなんてことは出来ない。
彼女にとって今の家族である彼らを取り戻そうと商人の前に飛び出した。
「オラ、お前らもジロジロ見てないで、とっとと失せろ!」
「な? な? ちょお待ったってぇな。堪忍したってぇな! な? ウチら今ええことあってん。お金入って来んねん。キノコ売ってこれまでの分、ぜ〜んぶ弁償するさかい。な?それでも足らんかったらウチ、働いて弁償するさかい、な?その子ら連れて行かんといたってぇな」
「あ〜うるさい! こいつらは農場行き! その方が街も綺麗になってせいせいする」
「そんなぁ。堪忍したってぇな」
「弁償するって言ってるんだから、少しくらい話聞いてあげてよ!」
「じゃあ、弁償するから犯罪には目をつぶれっていうのか?」
「え……いや、そういうわけじゃないけど……でも……」
「神様にでも祈ってろ!」
相手が正論すぎて、ルカだって何も言えない。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
「……自分の罪を悔い改めたこの子たちを助けない神なんて、神ではありません。私の信じる神はここにいます!」
そう高らかに言い放ったのはアンジュさんだ。
彼女は毅然とした態度で商人の前に出ると強い眼差しで彼を見据える。
その姿は、確かに聖女のようだと思った。
「その子たちを置いていってもらいます」
アンジュはそう言うやいなや、袖に仕込んでいた武器で目の前にいた男を殴り飛ばした。
あ、ごめん。ここら辺はちょっと聖女っぽくないかも。
「うぐぐ……この力……」
「おい早くせんか! 役人どもが集まってくるだろう!」
「その言葉の意味、詳しく伺いたいですね……つまり、子供の拘束は法にのっとった措置ではなく、あなたの私的制裁……ガルポスの農場へ送るという話も、あなたが私欲を満たすための人身売買……そんな意味ではありませんよね? ……よね!?」
「あわわわわわ……」
明らかに慌てたように後ずさりするのは、図星だからだろう。
エルマーナがぐっと拳を握り締める。
「そんなんやったらウチ……遠慮せぇへん。その子ら返してもらうで」
「神が許さなくても……私が許します。エル! やっておしまいなさい!」
「お、おい、金は倍払う! こ、この不気味なガキを取り押さえろ!」
「法を逸脱した私的制裁に人身売買。貴様の罪は重い。そうだな……弾丸一発分ほどか?」
リカルドさんとアンジュの言葉に、慌てて大男にそう命じる。
突き飛ばされていた大男だが、小さいエルマーナは動きも素早く、彼では捉えられないらしい。今度はエルマーナによってその体を大きくよろめかせた彼を見て、商人は情けない悲鳴をあげる。
それでもなんとかしろ、なんとかしろと叫ぶ商人は、ちょっとみっともない。何度かエルマーナの攻撃を受け止めていた大男も、その姿に何かを思ったのかもしれない。
ぐるりとエルマーナから商人へ体を向けると力の限り吼えて、商人を威嚇して追い払った。