25-2

「ヴリトラ様……ですな?」
「あんた……転生者か」

大男は逃げ出した商人の代わりに子供たちを縄から解放してやると、エルマーナに頭をさげた。
ヴリトラと呼んだあたり、転生者なのは間違いないだろう。それから、敵意がないこともわかる。

「ワシャあ、天上界での大戦中、ヴリトラ様に多大なるご恩を受けておりやす。あの戦乱の中で何度も家族の命を助けていただきやした」
「それ前世の話やろ……まぁええわ。その子ら離してくれてありがとな」
「とんでもございやせんぜ! ヴリトラ様はこの子らの親代わりだそうで。差し出がましいようですが、ワシも力をお貸ししますぜ! この子ら立派に育てましょうや!」
「うわ〜んエル!」
「良かったぁエル!」

泣きながら駆け寄ってきた子供たちを抱き締めて、エルマーナは心から安心したように息を吐いた。
それからちらりとルカを見て、ぎゅっと抱き締めた腕を放す。

「……なぁおっちゃん。この子ら、あんたに頼んでもええ?」
「はい。ワシの命に代えてもこの子らは幸せにしてみせますぜ!ヴリトラ様!」
「あんな。二人ともよう聞きや。ウチにはな、生まれる前から子供がおんねん」

しっかりとした口調で話し出したエルマーナを、子供たちもまっすぐに見つめる。
隣でルカが息を飲んだのがわかったが、みんな静かにエルマーナを見守っていた。

「アスラっちゅう大きい甘えたを面倒見たらなあかんかったみたいやねん。せやからウチ、行かないあかんねん」
「ええ!? エル、どこかに行っちゃうの?」
「やだよ! あのおじさん顔がコワいよぅ! エル、行っちゃやだよぅ!」
「ごめんな……でもこのおっちゃんの顔、よぉ見てみ? 案外おもろい顔しとるやろ。これからは、このオモロ顔のおっちゃんがよぅしてくれるさかい。心配せんでも、ウチの子が手ぇかからんようなったら帰ってくるさかい。絶対! 約束するで」

にかっと笑う彼女に、子供たちはちらちらと大男を見てからぐっとうつむく。
けれど、再び顔をあげた時には泣きそうながらもしっかりと笑顔を作って、うん、とうなずいた。

「……行ってらっしゃい、エル」
「行ってらっしゃい」
「ええ子らやなぁ。あかん……ウチ泣いてまいそうや」
「ウウッ! いい話やなぁ」

泣き出した大男は思っている以上に情に厚い人だったらしい。
でも、確かに健気な子供たちを見ていると涙腺がゆるむ気がする。ルカに至っては完全に涙目だった。

「絶対帰ってきてね、エル!」
「僕、寂しいけど泣かないからあ!」
「ええか。いっぱい食べていっぱい寝て、おっちゃんの言うことよう聞いて、はよ大きいなるんやで。ほなおっちゃん、この子らのことは頼んだで!」

例のキノコを渡してから、エルマーナはもう一度子供たちに手を振る。
そうして姿が見えなくなってから、エルマーナはわたしたちに向き直った。

「ウチは、あの子らよりも兄ちゃんの方が心配や。せやからウチ、一緒に行かせてもらうわ」

そう笑ったエルマーナの手を、わたしはぎゅっと握った。