「ミオも言ってたけど、記憶の場を探して前世の記憶を取り戻すことが、創世力の在処に近付く一番の方法だと思うの。ナーオス大聖堂の地下には教団の図書室があるから、そこに手がかりがあるかもしれないわ」
ということで、わたしたちは再びナーオスを目指すことを決めたのだけれど。
さあ行こうか、と思ったところで、けれどスパーダが言いにくそうに手を挙げて、寄りたいところがある、と言うのを聞いて、出発はもう少しだけ後にすることにした。
「その前によぉ……ちょっくら、服、着替えたいんだけど……」
「そうだった。スパーダの服、返してもらわないとね」
「ダリスのやつ、たぶん実家に投げ込んだだろうから……ちょっと忍び込んでくるわ」
「実家に忍び込む……なんだか難しい年頃なんだね……」
「ミオ、あんたなんかそれ違うわよ」
彼に案内されるままに訪れたのは、貴族の人達の家が集まる地区の中でも特に大きなお屋敷だ。どうやらここがスパーダの実家らしい。
ほえ〜、とわたしとエルマーナは貧乏人丸出しで口を開けてしまったけれど、他のみんなは特に動じることなく、なんだったら戻ってくるまで自由にしていようか、なんて穏やかに過ごしている。
こっちはベルフォルマって本当にいいとこの貴族さまなんだなあと改めて思っていたところなのに、みんな反応が薄い。
でもまあ、そうだよね。
ルカもそれなりにお坊ちゃんだし、イリアは村長の娘とか言ってたはず。一応いいとこの子だ。聖女アンジュと傭兵のリカルドさんはそうでもないかもしれないけど、職業柄いろんな人に会ったりいろんな場所に行くだろうから、そんなに驚くこともないだろう。
わたしとストリートチルドレンのエルマーナくらいだ、驚くのは。自称救世主はちょっとよくわからないので置いておく。
「あら、あなた新しいメイドね」
「へっ? あの、ちょっと……」
「ただいま〜。あーやっぱこれが一番落ち着くぜぇ」
うんうん、と考えている間に、すっかり見慣れた姿に戻ったスパーダが戻ってきて、なんだか勿体無いような気分になって苦笑する。
ちょっとかっこよかったんだけどね。でもこっちの方が落ち着くな。
「あれ、アンジュとエルは?」
「む。そういえばどこへ行ったんだ?」
「おいおい、護衛がそれでいいのかよ?」
いつの間にかアンジュさんとエルマーナが姿を消していることに気付いて、きょろきょろと辺りを見回す。
わたしたちはともかく、リカルドさんがアンジュさんの居場所を把握していないのはお金をもらった護衛としてどうなんだろう。つい先日のキノコといい、思っている以上にうっかりな人なのかもしれない。それでいいのか。
そう思いながら辺りを見れば、少し離れたところにいるアンジュさんを見つけた。
ただし、いつもの彼女ではない。
……シンプルなロングスカートとエプロンをつけた、まさしくイメージ通りのメイド姿の彼女が、そこにいた。
「まずは床のお掃除です」
「あの、私は……」
「さあ、ピカピカに磨きますよ」
「……なんか、メイドやってる」
「結構、様になってるわね」
「もうちょっとこのままでもいっかぁ。面白そうだぜ」
自分が着替えたからか、にかっと笑うスパーダは楽しそうだ。
むしろ、今アンジュがいないことを好機だと思ったらしい。ルカとコンウェイさんを引っ張って、どうしてだか見慣れない服を着て戻ってきたエルマーナを捕まえて、こっそりと彼女にアンジュさんの抱っこの感想を問いかけていた。
素晴らしく男の子だ、とイリアと苦笑していると、ふと、コンウェイさんもその話を真面目に聞いていることに気付く。
同じく引っ張られたルカは恥ずかしそうに聞かないようにしてるのに、コンウェイさんは平気そうだ。というか、静かに聞いていると言うか。むっつりなんだろうか。
いやまあ、うーん、確かに。アンジュさん可愛いし美人だし、柔らかそうだし、わたしもアンジュさんに甘えたい気持ちになるから、気持ちはわかる。わかる、けど、なんでだろう。すごく。すごーく、悲しくなってきた。
「こ、これが……兄弟の部屋や検索履歴でいやらしいものを見つけてしまった時の感情……?」
「あんたはいきなり何言ってんの?」
イリアの呆れた声を聞きながら、わたしはぐう、とよくわからない気持ちにこぶしを握った。