ナーオスまでたどり着いたところで、わたしたちはいつも通りハルトマンさんの家へ……と思ったのだけれど、兵士たちが歩いているのが見えたので、しばらく宿屋に入って様子を見ることにした。
「あれ? キミは……そんな所にいたら結構危ないよ。へぇ……じゃあキミにとってそこが特等席なんだね。いや、ボクは遠慮しておくよ。ここも悪くないからね」
戦うよりは隠れる方がいいに決まっているけれど、ハルトマンさんの家も、聖堂も、すぐ近くにあるのにな、と思うとなんだかもどかしい。
そう思ってだらだらと外を眺めていると、ふと、くすくすと笑う声がしたのでそちらに視線をやる。声がした方にいるのは、ちょうど窓辺に座って、何かに話しかけるコンウェイさんだけだ。だから間違いなく、この声は彼のものだろう。
……えーと、でも、誰と話してるのかな。
ちらりと周りを見ると、旅のメンバーはみんなこちらにいて、彼の前に人影はない。なんだったらみんなも不思議そうにコンウェイさんを見つめていた。
「あれ? みんな、いつの間に」
「ねぇ、コンウェイ……あんた大丈夫?」
「熱あらへん? 大丈夫?」
「いたって健康だけど、二人の質問の意図がわからないよ。何が聞きたいの?」
わたしたちの視線に気付いたコンウェイさんが不思議そうに首を傾げる。
うーん、独り言ではないつもり、なのかな。とすると誰かいたのかな。全然姿が見えなかったけれど……幽霊とか?
見えてもおかしくないかも、と考えていると、ルカがやんわりとした口調で問いかけた。
「今、誰かと話をしていたよね? その……誰もいないのに……」
「ああ、そのことか。「誰か」ならいたよ」
「俺たちなら全員ここにいる。他に誰がいるんだ?」
「ネコだよ」
「はぁ? ネコ!?」
「ボクはちょっと出て来るね。見たいものがあるんだ」
あんなにご機嫌な様子で猫に話しかけていたの、と驚くわたしたち置いて、彼はさっさと外に出て行ってしまう。
残されたわたしたちは互いに顔を見合わせたが、まあ、うん。猫が好きなら、話しかけてもおかしくないか、と納得することにした。趣味は人それぞれだし、わたしも犬や猫に話しかけること、よくあるし。動物好きなら不思議なことじゃない。
「ひぃ! 悪のネコ使い!?」
宿屋の入口からそんな声がして、わたしたちはひょっこりと窓から入口を見る。
悪のネコ使いってなんだ。凄まじく安直というか、厨二心すらくすぐらないようなネーミングに思わず苦笑してしまうが、窓から見えた光景にどうコメントすればいいのかわからなくなってしまった
だって、大群だった。
ほとんどが、黒猫だった。
その黒猫の大群に囲まれていたのは、いや、彼らを引き連れていたのは、コンウェイさんだった。
「にぎゃ〜ご」
一匹の黒猫が変な鳴き声をあげる。
その猫の名前を呼びながら駆け寄った男の人が飼い主なのだろうか。彼が猫を抱き上げたのを見て、コンウェイさんはそっと柔和に微笑む。
「その子、屋根から降りられなくなってたみたいだよ」
「屋根!? そんな危ない……助けてくれてありがとう! そうだお礼を……君には悪のネコ使いの服がきっと似合う!」
「なんやねん、悪のネコ使いって……」
思わず一緒に様子を見ていたエルマーナがつぶやいた言葉に、さあ、と答えるしかできない。
黒猫を従える様子は確かに悪っぽいけど、悪のネコ使いってなんだ。当たり前に出てくると言うことは、この業界では常識だったりするのだろうか。そのわりには、コンウェイさんは服を受け取っただけで中を見る様子もなく、さらっと流して荷物袋に入れてしまうあたり、興味はなさそうだ。
「なんか……コンウェイさんって、ミステリアスな魅力があるよね……」
「あれを見てそう前向きに受け取るのはあんただけよ」
後ろでイリアがそうため息を吐いたけれど、聞かなかったことにした。