無事にナーオスの聖堂地下の図書館に入った後、わたしたちは数人のグループに分かれて各地の信仰や天上界について調べていた。
なんでも、ここは天上界時代から続くものを集めた秘密の図書館なのだという。
言い方はかなりロマンがあるというか、謎の物語が始まりそうな香りがしてわくわくしたけれど、実際にはあまり掃除もされていない、だいぶ埃臭い場所で、ちょっとがっかりしてしまったのは内緒である。
一応、最近誰かが入口を動かした跡があったから警戒したけれど、その誰かが待ち伏せしているなんてことはなく。
わたしは、コンウェイさんと二人の班で分厚い本の文字を追っていた。
「うーん……」
「どう? ミオさん」
「なんか、読めるようで読めないようで読める感じで混乱する……」
本を持ちながらがっくりとうなだれる。
そう、そうなのだ。わたし、ここの世界の文字、なんとなーくは読めるんだけど。なんとなーく、なのだ。
知らない文字だけどなんとなくわかる! と思って読んでると、なんだか急にわけのわからない文章になってしまう。コンウェイさん曰く、おそらくウズメの記憶で読んでるから、長い歴史の中で文字の使い方や形が変わったりしていると急に読めなくなってしまうのだろう、とのことだ。
なるほどね。確かに文字って時代によって変わるものだもんね。
普通にしているだけなら基本的に困らないけど、こういう情報収集の時にはすごく困ってしまう。
勉強した方がいいのかな。でもなあ、この旅の中で勉強するのってだいぶ大変そうだし、どうして文字が読めないのと聞かれたときになんて答えればいいかわからない。
うーんと困っていると、きっとすでに文字のお勉強が終わっているのだろうコンウェイさんが、大丈夫だよ、と笑った。
「ま、有益な情報は他のメンバーが見つけるだろうから大丈夫だよ。この辺りはパッと見る限り、大した情報じゃないみたいだから」
「……コンウェイさん、なんでも知ってますよね」
「そんなことないよ」
そんなことあると思うけど。
こことも、わたしの世界とも違う世界の人だから、なのだろうか。コンウェイさんは基本的に動揺しないし、いつも予測していましたみたいな顔をして、あまり驚いたりしない。すでに知っている物語を追いかけているような、そんな冷静さがある。
不思議な人だ。でも、何を聞いても全部は答えてくれない。だからこそ気になる人。
いつも、どうしても、目で追ってしまう人。
「コンウェイさんの世界ってどんなところだったんですか?」
「気になるの?」
「そりゃあもう。異世界にきた先で出会った異世界人とか興味津々ですよ」
気にならないわけないじゃないですかーって笑えば、コンウェイさんもそうだね、と笑う。
ほらね、こうやってさらりとかわすんだ。
大人だなあと思うけど、そのせいでコンウェイさんのことを何も知れないでいるのはすごく寂しい。ルカたちも、うまくかわされてるからあまりコンウェイさんのことを知らないし。そこそこ一緒にいるのに、いつまで経っても不思議な人だ。
だから、今度こそひとつでも知りたいなあと思って。でも、言葉で勝てる気がしなかったから、じーっと催促するように見つめ続けていれば、コンウェイさんは困ったように本を置いて、少しだけ考える素振りを見せた。
「そうだね……国境を挟んで戦争してる国だよ。ボクはそこの学生。それだけかな」
「それだけって……他のことも知りたいです」
「もっとボクのことが知りたいなら、もう少し上手におねだりするんだね」
そしたら教えてあげるよ、と目を細めて笑う彼にドキリとする。
なんだろう。綺麗な人だっていうのは知っていたけれど、キラキラして見えた。
どきどきしてきた胸のせいで、なんだか急に落ち着かなくなってしまって。わたしは誤魔化すみたいにむっと頬を膨らませて、コンウェイさんにじとりとした視線を返した。
「コンウェイさん」
「なんだい」
「その言い方犯罪臭いですよ」
「……それは、心外だな」