チチチ、と鳥が鳴く。
ぱたぱたと羽音を立てて、わたしを見る。
なんか最近、鳥をよく見る気がして、わたしはなんとなく足を止めた。
夢の中で小鳥の話をしていることが多いから、目についてしまうだけだろうか。いや、それにしては、鳥の声をよく聞く気がする。戦場とか、戦っている時とか、森とか。直前まで気配を感じないのに、急に鳥がざわつく場面に居合わせることが多いと言うか。
なんだろう。これは偶然なのかな。どうして、鳥の声を、こんなによく聞いてしまうのかな。
「……いや、普通に鳥多すぎでしょ」
気付けば周囲を完全に鳥に囲まれていて、わたしは唸った。
どうしてだ。どうしてこんなに大勢の鳥に囲まれているんだ。しかも別に餌をたかられているわけでも、懐かれているわけでもない。一定の距離を保ったまま、わたしの周囲に鳥が集まり続けている。
それにしてもみんな色とりどりの羽で綺麗だ。なので余計に意味が分からないのだけれど、アシハラの街の鳥ってものすごく人懐っこいのかな?
「キミは鳥に好かれるタイプなのかい?」
「いや、そんなこと……ないですけど……」
「もしや、ウズメさまではありませんか?」
今回もコンウェイさんと同じチームを勝ち取ったので、二人で首をかしげる。
手を差し出したら鳥がじゃれてくるわけでもないし、余計に謎だな、と思っていれば。ふと、見知らぬ男の人にそう話しかけられた。
振り向いた先にいるのは、当然見知らぬ人だ。もちろんこっちに知り合いなんかいないし、本当に知らない男の人。
けれどその人ははっきりとわたしを「ウズメ」と呼び、感極まったような顔でよろよろと近付いてきた。
「は?」
「やっぱり、この感じ! 間違いない! ウズメさまも転生されていたのですね。よかった。ついに、ついに……我らを、お許しいただけるのですね……」
どこかうっとりとした様子でその人はわたしの手を握る。少し潤んだ目が、わたしに会えたことがどれだけ嬉しかったかを伝えてくるけれどやはり見覚えはない。
ウズメ、というからには前世が関係してるのは明らかだけど、明らかなんだけど、うーん。誰だろう。こんな人知り合いにいたかな?
何も答えられずにいると、その人はぐっと涙をのみ込んで。
それから、わたしの手を握ったまま膝を地面につけると、真剣な様子で頭を下げてきた。
「どうか、我らと共においでください。我らはずっと、あなた様の転生をお待ちしておりました」
「えっと……すみません。誰だかわからなくて……」
「知らずとも当然です。我らはあなた様に許されざることをした罪人の末裔。償えない罪を背負い、いつかあなた様にお許しいただけるその日を夢見て生きておりました。我らの里は北にあります。どうか……どうか!」
どうか共に来てください、と懇願するその人に、わたしはどうしたらいいのかわからない。
だってわたし、今はもうウズメじゃないし、言っていることもさっぱりわからない。
罪ってなんだ。覚えがない。許さないと怒ったこともない。わからない。知らない。何も思い出せない。
知りません、と言って離れたいのに、手を掴まれる力が強くて引っこ抜けなくて。いっそひっぱたこうかと思った瞬間、ぐいっと腕を逆方向に引かれた。
コンウェイさんだ。わたしはそのままぽすりと彼に寄りかかってしまえば、彼がにこやかに笑う。
「ごめんね。悪いけど、ボクたち急いでいるんだ。また今度にしてくれないかな」
「なんだお前。ウズメさまのなんだ」
「保護者かな。まあ、ボクのことなんてどうでもいいさ。前世ばかり見て今の彼女を見てないような奴は、悲しい運命を辿るだけだよ」
行こうか、とコンウェイさんが手を引いてくれるので、わたしもおとなしくそれに従って歩き出す。
まあ、もちろん、未だに手を掴まれたままなので、この人もついてきちゃうんだけど。困ったな、と思って、必死な様子の男の人を見て。わたしは、あの、と勢い込んで声を上げた。
「あ、あの! わたし、今、他の人達と旅をしているので! 行けません! ……でも、まあ、近くに寄ったら、行かないことも、ないかも……?」
なので手を離していただけると……と。どんどん勢いを落としながら言えば、その人はじっとわたしを見て。
それから、申し訳なさそうに目を伏せると、そっと手を離して、深々と頭を下げた。
「……申し訳ございません。気がせいてしまいました。それでは、お近くの際にいらっしゃられた際には、お迎えをご用意します。ぜひ、おいでください。必ず、あなた様にお許しいただけるよう、準備もしておきます」
お待ちしております。
何度もそう言って離れていくその人の背中を見送って、わたしはやっと息を吐いた。
「……ていうか、何を許すのか具体的に何も教えてもらえなかった」
「そうだね。まあ、さっき言った通り、どうせ世界中を巡ることになるし。気になるなら、その時に立ち寄ればいいと思うよ」
「そうですね。……あの、ありがとうございました」
「いいよ。それより気を付けて。ミオは結構のんびりしてるみたいだから」
「別にのんびりは……あれ?」
ふと違和感を感じて首を傾げる。
なんだろう。今、ちょっと、見落としたくない重要なことがあったような。
「どうしたの? 早く行くよ、ミオ」
もう一度、呼ばれて。わかった。呼び捨てだ。
気付いた瞬間ぶわっと顔が熱くなって、あわわとわけのわからない言葉が口から零れる。
呼び捨て。呼び捨て! コンウェイさんに呼び捨てにされた!
たったそれだけのことなのに、何故だか頬がすっかり熱くなってしまって、わあわあと叫び出したいような気分になる。どうしたんだろう。なんでだろう。すごく嬉しいような、恥ずかしいような、変な気持ち。
きっと変な顔もしているのだろう。くすりと笑うコンウェイさんに、わたしはなんだか頭が破裂してしまいそうだった。