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天には、常に美しい光が降り注いでいる。
太陽が、月が、星々が。一番近くで輝いて、光を与えてくれるのだから当然かもしれないけれど、我はその光あふれる景色を見るのが好きだった。
美しく咲き誇る花も、豊かな緑も。優しく夜を共に過ごしてくれる夢も、賑やかな歌も。どれもこれもが好きだからこそ、我は天も、地も、どちらも愛していた。

くるり、足を踏み込めば、緑が生い茂る。
ひらり、手を翳せば、色とりどりの花が開く。
地上で美しく飾り立てられ、感謝を込めて舞を踊った地上人の少女を思い出しては、そうっと微笑んで。
華やかな舞に込められた祈りを、目の前の花の女神に。我の友人である黒髪の少女……サクヤに届けるために、舞い踊る。
やがて少女と同じように舞の終わりの礼をすれば、サクヤはほうっと頬を染めた。

「素敵ね。花たちも、楽しそうに咲いている」
「花の女神に捧げる舞じゃ。花が喜ばなければ、意味もない」

地上の祭りというのは様々な形があるけれど、その根本にあるのは神や祖先に祈りと感謝をささげるという信仰だ。
あらゆる事象、自然に感謝をし、その来年もまた同じように豊かな年になりますようにと祈る。
この祈りこそが、我ら天に住まう神々にとって必要不可欠なものだ。それを受け取り、天は恵みを与える。天地の循環に絶対に必要なもの。
そして、各地で行われる祭事に捧げられる祈りを受け取り、踊りながら、歌いながら、天に振り撒くのが、我の役目であった。

「ちなみに、最近は花の季節にちなんで、恋にまつわる催しも始まっているようじゃぞ。そこのところ、どうなんじゃ、我の美しい花の女神よ」
「ど、どうもこうも、信仰がまた新しい信仰を生み出すのは珍しいことじゃないわ。それに……花と契れば短命になる。それならば私は、少しでも長くアスラ様を見つめていられれば、それでいい」

誰も彼の名前なんて言っていないのだけれど、それを指摘するのはやめよう。せっかくの友との語らいなのに、またあの男の話題にすべて持っていかれるのは単純におもしろくない。
けれど、でも。どうしてもこれだけは言いたくて、肩をすくめる。そんな風に奥ゆかしくいていいのかと。思いを沈める必要はあるのかと。

「短命になろうが、好いた者と共に過ごせればそれでいいと思うのじゃがの」
「ふふ。そうね。そういう考えも、あるのかもしれないわね。でも……私はそうは思えないの」

彼の覇道に咲く花でいい。
そう言って、眩しそうに向けられた視線に宿るのは情景だ。よく、楽しそうにお役目を果たす己を見て、自分もああなれればよかったと憧れの視線を向けられることがあるから、すぐにわかる。
戦いたくないとか、恵みをもたらせられないとか。こんな役目じゃなければよかったのにとか。もしくは単純に、自分も美しく舞いたかったとか、能天気に過ごしていたかったとか、そんなことを言ってくるものは、多くいた。

でも、それなら我だって、彼らのことがうらやましかった。
我は祭事の神。舞い踊ることで心を癒やし、祈りと信仰を循環させられども、戦えはしない。人々の信仰と神々の恵みを繋ぐ祭事の神は、どれだけ友が倒れよう、傷付こうと、その隣に立つことはできないのだ。
決して自身を誇りと思っていないわけではないが、それでも、やはり……悔しい気持ちは、ある。

自然と黙り込んでしまった自分の頭に、サクヤがふわりと何かを乗せた。
柔らかいそれに触れれば、それはこの女神が作った花冠だとすぐにわかる。
彼女は、とても似合うわ、とゆっくりと微笑んで。いつまでも素敵な花を咲かせていてねと、手を取って。
そうして、眩しそうに目を細める。

「ウズメ、どうか、祈ってくれる? 私達が……アスラ様が天上界を統一なさり、天地が一つになることを」

皆が、幸せになることを。