ん、と小さく声がもれて、ぼんやりと目を開く。
さっきまで夢を見ていた気がする。あの、どこか知らない遠くの世界の夢。
いつもよりはっきりと覚えている気がするのはどうしてだろう。
やけに気だるく働かない頭をゆっくりと覚醒させていく。はて、なんだか床が冷たいような……何度か目を瞬かせて辺りを見ると、そこは牢屋みたいな暗い部屋があって、わたしは床に無造作に寝転んでいた。
見慣れない場所。それに、ああ、あの夢とは違うかもしれないけれど、現実に知らない世界にいるから、夢のこと、よく覚えていたのかなあ、なんて思った。
「ここ……」
「ここは転生者研究所だとよ」
ムスッとした声が聞こえて、わたしはゆっくりと起き上がる。
さほど広いわけでないこの部屋には、わたしと声の主と、あともう一人女の子が座り込んでいる。距離がみんな近くないのはなんでだろう、と考えて、ずきりと腕が痛んで。あ、と意識を失う前のことを思い出した。
あの後、本当に無理やり連行されてしまったらしい。ならここは牢屋みたいな場所、じゃなくて、本当に牢屋なのだろう。
どうしてこんなことに、と青ざめながら声の主を見ると、それはあの広場で会った少年のようだった。
「あんたも転生者だったんだな」
「は? 転生……?」
「なんだ。ガチで目覚めたてかよ」
タイミング悪かったなあ、とめんどくさそうに、けれどどこか同情するような目でため息を吐かれる。
いや、いきなり意味わかんない単語ばっか並べられて牢屋入れられて、ため息吐きたいのはこっちなんですけど。いったいどうしてこうなった。
混乱する頭は泣きそうで、でも泣くわけにはいかなくて。わたしはぐっと言葉ごと涙を飲み込んだ。
「オレはスパーダ・ベルフォルマだ。とりあえずよろしくな」
「あ……と。わたしは浅神深魚。ミオでいいよ。えっと、わたし、色々疎くて……状況の説明が欲しいんだけど」
異世界から来たのでこの世界の常識何も知りません! とは、さすがに言えなくて。
なんとか言葉を選びながらそう言えばスパーダくんは、田舎の出身か? なんて言いながらも親切にもわかりやすく……いや、だいぶ彼の偏見も含めてだろうけど、説明を始めてくれた。
まず、捕まえられる時に言われていた、異能者捕縛適応法。
わたしたちは、この法律で拘束される条件に当てはまるから、こうして連れてこられてしまったらしい。
その条件って何だと問えば、特殊で強い力……わたしの場合、あの怪我を治した力、を持つ人の事、らしい。彼らは異能者と呼ばれ、見つけ次第拘束されるのだという。
「この異能者ってのがオレ達転生者のことだ。お前もあんだろ? 前世の記憶っつーかなんつーか、やけにリアルでハッキリした夢を見ること」
言われて、ハッと思いついたのはついさっきも見た夢だ。
わたしがウズメと呼ばれている夢。
美しい、知らない世界に生きる、ウズメの夢。
「あれが……前世の記憶……?」
よく似たような夢を見るなあとか。結構連続性があるなあとは、思っていたけれど。さすがに、それが前世の記憶だとは思わなかった。
前世とか生まれ変わりだなんてもの、物語の中にしかないと思っていたし、不思議な夢だなあと思うだけで終わっていたのに。あれが、わたしの前世。そしてその記憶を持っているからこそ、異能者と呼ばれ、こうして捕まってしまった、なんて。あまりの情報量にぽかんとするしかできない。
というか、わたし、この世界の生まれじゃないのに。
別の世界に生まれ変わるとか、そんなことアリなんだろうか。
わたし、元の世界でどうなっているんだ。もしかして存在しないことになってる? それとも行方不明? どちらにせよ、わたしがこの世界で生きていた人の生まれ変わりなら、もう元には戻れないんじゃない?
どうしよう。どうしよう、コンウェイさん。
思わずこの世界に来てから、わたしの何かを知ってそうだったコンウェイさんのことを思い浮かべるけれど、当然彼はここにはいない。ああ、迎えに来てくれるって言ってたのに、わたしが移動しちゃった。約束破っちゃったな。怒られるかも。怒ってくれるかな。もう会えない気がする。
でも、でも、あれ? さっき、わたしがよくわからないままにスパーダくんの怪我を治した力を「異能」と呼んで、それが転生者の証だって、彼は言うけれど。そうしたら、魔法を使っていたコンウェイさんも同じなのだろうか?
ああ、もう、わからない。いろんなことがわからない。
わかるのは、わたしがウズメの記憶を持っているということと、異能者捕縛適応法で捕まってしまって、この牢屋には異能を封じる力があるせいで脱走なんてとてもできないということ。
「わたしたち、これからどうなるの……」
「さあな。兵器になるか兵隊になるかどっちかだろ。転生者が使える天術は格好の兵力だしな」
「そんな……」
戦争とか、戦いとか。そんなもの、わたしには遠い、無関係なもののはずだったのに。
がっくりと、ただただ途方に暮れて大きくため息を吐いた。