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コンウェイさんを好きか嫌いかで言えば、大好きだ。
異世界に放り出されたわたしを助けてくれた人。心細かったわたしに安心をくれた人。行くべきだろう道を教えてくれた人。
だからわたしはコンウェイさんが好きだし、一緒にいたいとか、知りたいとか、もっと近付きたいなって思う。コンウェイさん全肯定botとなってもいいかなと思うし、呼び捨てにされたら嬉しいし、彼がそこにいるだけで、だいぶ心に余裕ができるという自覚も、当然のようにあった。

ただ、それが恋かと言われるとわからない。年上の人への憧れを勘違いしてると言われたら否定できない。お兄さんのように思っているのは事実だし、なんだったらパパかもしれない。いや、そこまではいかないか。どちらにせよ、保護者、という先日の自称に異論がないくらいには、彼のことを頼っている。
イナンナやサクヤのような、あの端から見ても激しいとわかる熱情は感じない。だから、自信を持って恋であると言えない。
そんな、変な感じ。それが今の、わたしのコンウェイさんへの「好き」だった。

「同じように前世の記憶を持っていても、抱いている感情はみんな違っているみたいだね」

みんなから離れてむすっとしていると、ひょい、とコンウェイさんが覗き込んできた。
それにやっぱり、少しだけドキリとしながら「そうですね」と笑って返す。

「そりゃあ、内容が違いますから。わたしはウズメの記憶しかないから、イナンナとサクヤが昼ドラ並みの修羅場を繰り広げてたことは知ってるけど、そのときの二人の気持ちなんて知らないし。チトセが今も昔も全部ごっちゃまぜになってる理由もわかんないし」
「なるほど。転生者だから言える意見か。そうだね……ミオは、ウズメの記憶に共感することはないのかい?」
「共感ですか?」
「自分との境目がわからなくなるような気持ち」

きっと彼女は、自分との境目がわからなくなってしまったんだよ。転生者じゃないから想像するだけだけどね。

そう続けたコンウェイさんの目線を追って、わたしは海の向こうを見る。
どこまでも広がる海は、地球とまったく変わらない綺麗なものだった。わたしがずっと記憶を夢見てきた頃と、何も変わらなかった。

ウズメは、いつもわたしの夢の中にいた。いつもいつも繰り返し見ていて、記憶の中では確かにウズメだった。
でも、やっぱり夢だから、目が覚めたらわたしはもう、彼女のことはわからない。世界も違うから、特に生活するうえで助かったこともない。ああでも、わたしもあんな、楽しいことを考えて生きていたいなぁと思うきっかけにはなったかもしれない。
前を向いて、自由に。自分らしく生きるのは素敵だなって思って、なんとなく生き方を教えてもらってるみたいな気持ちはあったかもしれない。

「……わたしは、ウズメのこと。やっぱり他人っていうか……家族に近い、誰かだと思ってるから」

そう。憧れたり考えたりしても、共感はそこまでしなかった。あくまでわたしに何かを教えてくれるような、そんなお姉ちゃんみたいに感じてた。
だから、わたしにとってのウズメは、誰よりも一番近くにいる、他人だ。
彼女はわたしじゃない。わたしではないのだ。

「困らせる質問をしちゃって、ごめんね」

ぽん、と頭を撫でられる。
コンウェイさんがどんな回答を求めていたのかわからないが、彼はやっぱり柔らかく微笑んで、何でもないようにわたしの頭を撫でた。
コンウェイさんもいろいろとよくわかんないけど、でもまあ、こうやって気にかけてもらえるの嬉しいし、やっぱり好きだなぁって思う。

「……あ」
「ん?」

コンウェイさんが笑うのと同時に、ぶわわーっと、急にいろんな気持ちが込み上げてきた。
うわ、うわ、うわ。そうだ、好きだ。コンウェイさんに気にかけてもらったり、こうやって頭を撫でてもらったりするのも、すっごい好きだ。いや知ってたけど。知ってたけど!
ぶわぶわと何かが込み上げて、顔が熱くなっていくのがわかる。
なんというか、ふっと好きだと感じたら、ああやっぱり大好きだなって、思ってしまって。
これが、散々言われたような意味の「好き」なんだって、気付いてしまう。

「どうしたの、ミオ。急に真っ赤になったみたいだけど」
「あ、あああ、いや! 平気! 照れた!」
「ああ、撫でられるの嫌いだった?」
「いやそれはありがとうございます!」

物凄く力強く答えておく。
はっきりばっちり自覚したら、なんだかそれだけでおなかの裏側がくすぐったくなるぐらい力んでしまって、わたしはぎゅっと目を閉じる。
それから小さく、呟いた。

「す……好き、ですから」
「そう、良かった」

この好きは、たくさんの意味があるのだけど。
それは、いちいち言わなかった。
だって、好きだもの。好きだから、いいや。
今は、これで。