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西の土地。ガラムに住まう職人らにとっては、火山そのものが御神体である。
職人たちにとって子供であり芸術であり居きる術である、かけがえのない作品たち。それらを造るために用いる火や炭鉱に信仰心を抱き、それらが生まれる火山そのものが信仰の対象となる。
もちろん、それとは別に、鍛冶の神であるバルカンも信仰している。神が堕ちた姿が地上人であることから、神そのものを信仰することは少ないことから、この地の人々は、地上に根付いて生きることを決意し、生きてきたのだと言うことを示しているのだと言う。

……というのが真面目な説明。ここからは個人的な感想。
ガラムは火山がどうこう、職人の芸術がどうこうと名物がたーくさんあるけれど、その中でも特に! 温泉が有名なのだそうだ。
町の宿には当然のように温泉が付属されているし、温泉卵も売っている。現在進行形で宿の待合室の椅子に座って食べている温泉卵は、地球のそれと変わらずに美味しかった。
ならば間違いなく温泉も最高だ。入りたい。ぜひとも。

「ガラムって、なんかやっぱりいかつい人が多いね」
「鍛冶職人だし、いかついのは当然なんじゃねーの?」
「いかつかろうがなんだっていいんだよ。温泉の前にはみんな人。……温泉! 入りたい! 温泉卵が食べられて、温泉に入れないなんて!」

わあっと大げさに泣く真似をすれば、おーよしよしとこれまた大げさにエルが抱きしめて頭を撫でてくれる。
温泉卵は、わたし個人のお小遣いで買えたのに。まさか肝心の温泉に入れないなんて思わなかった。船の中からうきうきしてたのに。

「修復作業中なんだってんだから、仕方ねえだろ。せっかく来たのに、つまんねぇよなぁ。しかもここ、夜は水着着用で混浴らしいぜ」
「真っ先にそれを確認したのかよ」
「うっせ。それ以外に何を確認すんだよ」
「普通に効能とか聞こうよ」
「温泉なんかいいのよ今は! それより、宿に泊まるお金がないってどういうことよ!」

スパーダとゆるゆるの会話をしていれば、イリアが苛立ちを隠すことなく声を荒げる。
そうなのだ。それも問題なのだ。
船代とか食料とか買い出ししたら、宿代が足りなくなってしまったのである。
一応、三人くらいなら泊まれなくもないのだけど、いかんせん今は八人の大人数。宿代その他も金がかかってしまうのだ。

「まあ、道具とか食料とか旅費とか、いろいろ使ってるもんねぇ」
「待合室で休ませてもらえたのだから、ここは我慢ね。火山に入ったら魔物から素材やお金を集めて、最後に温泉を堪能することにしましょう」

ゲームとかで魔物を倒すとお金が手に入れられるけど、あれってただの演出とかゲーム都合じゃなくて、結構本気で金策としてこの世界では優秀らしい。
正確には魔物が持っている素材だとか、野党などから剥ぎ取った武具防具、引っかかっていたお金なんかを回収してるのだけれど、まあそれらを集めればそれなりのお金になる。さらにそれはそのまま魔物退治の証になるので、近隣住民から別途お礼なんかをもらえたりする。
一応、わたしたちが次に行こうとしてるのはこの町が崇める神様の御神体、ケルム火山になるから、中の掃除的な意味でも魔物を討伐するのはいいことのはずだし、お金は集まるだろう、との見立てだ。
まあ、それは未来の話で、現在進行形で宿に泊まれず、待合室の一角を借りて少しの間休ませてもらっているのは変わらない。

「ちょっとルカ、本当にお金持ってないの?」
「持ってないって……うわあっ脱がさないでよ!」

イリアが突然、ルカの服に手をかけた。
あ、わたしこれ漫画とかで見たことある。お前金持ってんだろ跳ねてみろよ、みたいなカツアゲだ。

「よいではないかよいではないか」
「あひゃひゃ! いいぞもっとやれ!」
「いやーん、ルカ兄ちゃんが真っ裸にされとる!」
「まだされてないよ!」

無情なことに、スパーダもエルも楽しみはすれど止めることはしない。イリアはあの極悪人みたいな顔で笑ってるから、たぶん本気ではないのだろう。
けれど、本当に素っ裸にされてしまってはルカも本気で泣いてしまう。なので、ある程度のところで、アンジュさんとリカルドさんからストップがかかった。
わりとここまでテンプレである。

「イリア、いい加減にしなさい」
「あまりからかいすぎるな」
「わかってるわよ。冗談よ」

二人に注意されて、みんながあっさりとルカから手を離すのもテンプレだ。
結局みんなルカのことが好きで、本気で泣かせたいわけではないのだろう。ちゃんと誰かが止めてくれるように、みんなの前でふざけるようにしているみたいだし。いや、そういう気遣いがあろうと、いじめていい理由にはならないのだけど。
さじ加減が難しいなあ、と考えながら、わたしは早く戻ってきて温泉入りたいなあ、と思った。