「ああ、こらっ! 中に入ってはいかんいかん」
それなりに休めたし、いざ火山へ、と入り口まで向かったところで、わたしたちは慌てた様子のおじさんに呼び止められた。
「なんだよ。通してくれよオッサン」
「お前らこの町の者ではないな。この先は観光地じゃないぞ。ほら、帰った帰った。それに今この上にはな、あの殺人鬼ハスタが居座ってるんだ」
「ハスタぁ!?」
「だから町に帰るんだ。わかったな」
そう言われて、しぶしぶと入り口から離れる。あの人、どうやらみんなの安全のために門番みたいなことをしているみたいだし、強行突破はできない。あの人を説得できない限り、中に入ることはできないようだ。
それにしても、ねえ。うん、ハスタ、かぁ。
いい思い出がない。
「ハスタ……久しぶりに聞く名だな」
「あのデタラメ野郎。なんでこんなところに居やがるのよ……」
「最悪。もーうざったい!」
「イリアもミオも、また口調が……」
「どうしてこんなところにおられませられるのかしら……」
「最悪です。なんて鬱陶しい方なんでしょう」
適当な敬語を使えば苦笑された。
「……どうやら奴め、もう一度死に目に遭わせる必要があるようだな」
「またアイツかぁ……でも変だよな。オレ、あいつとは初めて会った気、全然しねーんだよな」
「そういえばスパーダ。前にもそんなこと言ってたよね」
「なあなあ。そのハスタっちゅうんはどんなヤツなん?」
「イリア先生、どうぞ」
「そんなの知らないわよ! 言ってることが意味不明でタチ悪くて会話が通じなくてフリルが可愛くて変態チックな奴のことなんてさ!」
嫌がりながらも結構的確なイリアの説明を聞いて、エルはどこまでが本当なのかとこちらを見上げてくる。全部本当だと返せば、神妙な顔をして「随分変な奴やな」と呟いた。
「西の戦場で知ったが、どうやらあいつも転生者らしい。ラティオの陣営だったようだが……」
「そうなのか? 一緒に傭兵やってて、なんでその時まで気付かなかったんだよ」
「さぁな。もしかしたら俺との戦闘で覚醒したのかもしれん。そうなると、今の奴の暴走は俺の責任かもしれんな」
ハスタもラティオの転成者……とのことだけど。そうしたら、もしかしてウズメの知り合いだったりするのだろうか。
なんとなく、先日の峠での彼の言動からして、ウズメを知ってるような気もする。それだったらやけに距離が近かったのも頷けるし。わたしもなんとなーく知ってるような思い当たるようなそんなこと全然ないような……そんなに交流があった相手ではない、と思うんだけど、誰だろう。
「ねえ、こういうのはどうかしら? ハスタを火山から追い出すから、中に入る許可をもらうの」
考えている間に、はい、と手を小さく挙げてアンジュさんがそう提案する。
ハスタがいるから入れないなら、ハスタを倒すためにという口実で入ればいいとのことだ。なるほど頭いい。
「ほう? 確かにアイツと対等に戦えるのは俺たちぐらいしかいないだろうな」
「望むところだ、腕が鳴るぜ!」
「ま、中に入ってしまえばこっちのものよね。最悪アイツも放置しても……」
「うっわ。イリア姉ちゃん、それえげつなぁ〜……でも、ま、ええんちゃう?」
「イリア。エル。そういう人の期待を裏切るような発想は慎みなさいね?」
「わかった! わかった! わかりましたよーっと!」
「……と言いたいところだけど、案としてはアリね」
「アリなのかよ……」
「アリなんだね……」
「アンジュさんってどうして聖女なんて呼ばれてたのか、時々わかんなくなる……」
わりとちゃっかりしてるし、怖いし、お布施という名の盗む技とか持ってるし……
そう思わず引いてしまうわたし達を見て、アンジュは困ったように笑う。それがまた可愛らしくて、なんというか、美人な大人って汚いなぁって思った。
「優先事項を設けるだけよ。私たちの目的はあくまで記憶の場。ハスタの捕縛はそのついで。誰も勝てない相手なんだから、私たちが討ち漏らしても誰も責めないと思うし……」
「おわぁ。アンジュ姉ちゃんも意外と言うときは言うねんなぁ」
「さすが、海千山千の教団関係者だけのことはある」
「正直なだけじゃ生きていけませんから」
あくまで「ついで」にハスタを倒すの、と彼女は締めくくる。
自分たちの目的は達成できるし、場合によっては町の人も助かる。無理だったとて、殺人鬼と名高いハスタに立ち向かって生還できたと歓迎されるくらいだろう。
そう作戦立てるアンジュさんやリカルドさんを見て、ああ、これが大人なんだなって、ちょっとだけ成長した気持ちになりました。なんてね。