視線の先。火口付近に立つ男を見て、真っ先に駆けだしたのはスパーダだ。
対するその男は、ぶらぶらと体を揺り動かして、肩に乗せた槍で遊びながら、わたしたちを見てへらりとした笑みを浮かべる。
「コンニチハ。ココハ ケルム火山 デス。皆さん、右手に見えるのが通称「記憶の場」……一方、左手をご覧くださいませ。左手で一番長いのは中指でございま〜す」
優雅に一礼してみせるのはハスタだ。
このくそ暑い火山の中で、相変わらずフリルのついたちょっと可愛らしい服を涼しい顔で着ている。しかも遠目だけど汗かいてない。どういうことだ。
「貴様なんの冗談だ。死に損なっておかしくなったのか?」
「おかしいのは元々じゃん」
「やあやあ幸いこの通り全力で普通でゴザイますともリカルド先生! ミオ先生!」
思わず呟いた言葉に、過剰とも思えるような反応をしてみせる彼は、しっかりとわたしのことを覚えているらしい。
ぶんぶんと槍を回転させて遊ぶ姿はやけに余裕綽々としていて、ああもう、やっぱりなんかすごい反応に困る。どんな風に説明すればいいかもわからないような、とにかく何もつかめない会話だけが続いていく。
「さてさて後ろの方々は先生のご家族? 確かに目元がそっくりですピョロよ?」
「うっわ……やっぱ全然話が通じないわ。どこをどう見ればあたしたちが家族なのよ!」
「……とまあ、小粋なジョークタイムはここまでにしてだァ。おまいらの鼻に浮いた油を見ると、オイラ一次欲求を満たしたくなったポン。さあ楽しもうぜ? レッツエンジョイ!」
イリアもアンジュさんもエルも、もう会話したくないなという感情を露骨に表情に出すけど、ハスタはいつまでも自分のペースを崩すことをしない。
「なんて下品な方……あなた、こんな所に居座って、何が目的ですの?」
「そこの娘さん想像力が足りないなぁ。そこは「一次欲求ってなんですの?」って聞いてくれないと話が進まんぜ?」
「いちじよっきゅーってなんですかー」
「正解は、食欲と海水浴と殺人欲。そういうわけでオイラ、全部満たしていいデスか?イイデスね?」
律儀に聞いてやると、槍を向けてそう高笑いをする。
リカルドさんが深く深くため息を吐いて、それからしっかりとライフルを向けた。
「ふ……俺としたことが……つい暑さでこいつの脳天に弾丸をぶち込むのを忘れていた。さあ、そのよく動く口、永遠に動かんようにしてやる」
「いやん。……きゅぴーん!」
急に武器をおろしたかと思うと、ハスタは背後にあった記憶の場に足を踏み入れた。
見えたのは、デュランダルとアスラが戦場にいる姿。目の前で対峙しているのは、禍々しく輝く槍……ああ、知ってる。これはゲイボルグだ。バルカンが強さを求めて作った息子で、ウズメが名付けた魔槍。
持ち主を食らって敵を食らって、真っ赤に染まったゲイボルグ。
デュランダルによって打ち砕かれたゲイボルグの姿が見えた。
「お前は、魔槍ゲイボルグ……!」
「前世のが普通に会話できただと……」
再び視界が今のわたしたちに戻ってきたところで、スパーダが憎々しげにハスタを睨む。
隣でうっかり呟いた内容は忘れてほしい。少なくともハスタは気にならなかったようで、スパーダに焦点を合わせると不思議そうに体を揺らした。
「えーっと、オイラの前世の名をご存じのそちらは一体どちらさま? ひょっとしてデュランダなんとかさん? 君もバルカンの地に心惹かれて来たのかな? ん〜? さすがご同輩ご同族ご同根!」
「黙れ! 耳が腐る! オレを同族だなんて呼ぶな!」
「心から再会を喜ぶこのオレさま。しかし心はすぐに悲しみで満たされるのでした。なぜなら前世で敵同士なら、当然現世でも敵同士。我々は殺し合う宿命なのですッ!」
「宿命……そうだな。バルカンの後始末は息子のオレの宿命ってヤツだ。魔槍ゲイボルグ……オレがバルカンの名にかけて、貴様をへし折ってやる!」
スパーダの言葉を合図に、全員がハスタに向かって足を踏み出す。
わたしも後ろで支援のために術を唱えだして、戦いが始まった。
「溶けたアイスの恨み、はらさせてもらう!」
「いきなり戦闘の緊迫感台無しだ!」
……始まったのである。