何が起きたのか、すぐにはわからなかった。
理解することが怖かった。
この世界に来て、怖いことってたくさんあって、見たくないものもたくさん見て。それでも、一人じゃないから、少しずつ余裕も出てきて、感覚もマヒしてきたけれど。
目の前で、ルカが槍に貫かれてしまった。
傷口からたくさん血が溢れて、全然止まる気配がない。
暑い火山の地面の上に、力無く横たわっていて、返事をする意識もない。
そんな場面を見たら、今まで忘れていた怖いこととか、いろんなものがこみあげてきて。
理解したくないって思って、嫌だって思って、反射的に彼に駆け寄った。
「ルカっ! ルカあっ!」
「ルカくん、しっかり!」
もう何も考えずに、ひたすらに治癒術をかける。いつの間にかハスタが逃走したことにも気付かず、無我夢中で治癒術を行使する。
それでも血は止まらない。血の気が引いていく。彼の体に力が入らない。意識が戻らない。治れ治れと念じているのに、それでも傷は塞がらなくて、このまま死んでしまうんじゃないかって思って、腕がガクガクと震えるのがわかった。
「どうしよう、血、血が、血が止まらないよぉ……っ」
「早く応急処置を! 街に運びましょう!」
「オレの……オレのせいだ……さっさとトドメを刺しておけば、ルカは……」
「スパーダ! 後悔など後でいくらでもできる! 担架を組む! 手伝え! イリアは大きな布を用意! アンジュとミオはそのまま応急処置! スパーダとコンウェイは担架を組むための木を探せ!」
リカルドさんの指示に従って慌てて街へと戻ると、あの入口にいた人が呼んでくれた医者が緊急で手術をしてくれた結果、なんとかルカは一命を取り留めた。
あとは目覚めるのを待つしかないと、そう医者は言ったけれど……どうしても落ち着かなくて、せめて体力が早く戻るようにと、わたしは彼の眠るベッドで、ひたすらに治癒術をかけ続ける。
目覚めず、眠ったままのルカは本当に顔色も悪くて、このまま目覚めないんじゃないかなんて思ってしまって。何もしないで待つ、なんてことが、できなかった。
それはわたしだけじゃない。スパーダも隣でルカの手を握りしめながら、何度も辛そうに言葉を吐き捨てた。
「クソッ……クソッ」
「なに連呼しとるんや。出そうなんかいな……もがもがっ」
「口が悪いみたいね、スパーダくん」
「るっせぇな! ……あ、いや……」
思わずアンジュに怒鳴りつけてしまって、慌てて俯く。
スパーダの狼狽ぶりは、妙なほどだった。友達が、というだけではないほどにうろたえていて、何度も何度もルカの手を握っては祈るように目をきつく閉じる。
「スパーダ、ちょっとは落ち着きなさいよ。ルカが死ぬわけないじゃん」
「ったりめーだろ! 死なせるもんかよ! オレは絶対ルカを守るんだ……今度こそ……今度こそ……!」
「……ミオさんも、あまり根を詰めないで。あとはもう、治癒術でどうにかなる話じゃない」
コンウェイさんがそう話し掛けてきてくれたけれど、でも、止める気にはならなかった。
むしろ隣でスパーダが祈るだけ、わたしの力は無尽蔵に生まれるような気がした。
それらすべてをもってルカを治療したかった。死なせたくなかった。
「平気」
「心配ないよ。ルカくんなら」
「わかってる」
わかってるけど、でも。
倒れていくルカと、今も目覚めないルカの姿が目に焼き付いて離れなくて。
本当に本当に、怖いんだ。