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「我は戦えぬ神じゃ。戦うことなど、もちろんせぬよ」

その日、我は誰かと話をしていた。
誰だっただろう。なぜか相手の顔が見えなくて思い出せない。
けれど、目の前にいる彼女は間違いなく我にとって信頼できる者で、大切だと思う友人だった。

「ふむ。確かに、それならば後方支援が得意なのでは、と思うことも不思議ではないじゃろう。だが……残念。それも出来ぬ。我は本当に戦うことに関してはなーんもできぬのでな」

神は皆、天術を使うことができる。他にも肉体に秀でた者や、支援のための術を使う者、そもそも戦うのに必要な武器を作ることに長けた者など、基本的に戦うための力を有した者が多い。
けれど、我は違う。我は最初に地上に落とされた者たちが、自分たちの贖罪の祈りを必ず天に伝える者が必要だと、その存在を願ったことで生を得た。彼らの祈りによって生まれ、彼らの願いを叶えるために、天地を循環させている。
だから、戦うための力など必要ない。だから、戦えない。

「ほう。お主は治癒術が得意なのか。なに? それしか使えない? 十分すぎるじゃろ」

自分もなかなか前に出て戦うのは苦手だ、と言って視線を落とした共に、我はからからと笑う。
回復が得意だなんて、それだけで十分だ。傷を癒すこと。病を癒すこと。それ以上に素晴らしいものなどあるだろうか。

「そうじゃの。正直、ものすごくうらやましい。我は人々の祈りを繋げるだけ。舞に乗せて、歌に乗せて、彼らの様々な祈りを天に連れていくだけ。それだけの神じゃ。誰かを守ることも、助けることもできぬ。だから……たとえそれしかできずとも、我はうらやましいと思うよ」

そう、うらやましい。だって、それならば、前に出て戦う者たちの傍にいられる。
我は、我として生まれたことに誇りを持っているけれど、たまに、友たちと同じ目線で世界を語れないことは、寂しいと思っていたから。
だから、お主は十分に素晴らしいのだと、そう伝えたくて。

そっと手を伸ばして、そして……


……わたしは、目を覚ました。

目の前にあるのは宿屋の天井。寝ている場所は、間違いなくベッド。
あれ、でも、いつ寝たんだっけ。わたし、ルカに治癒術をかけていたはずなのに。
いつの間に眠って、いつの間に夢を見たんだろう。
かつての夢。前世の記憶。
そして、ああ。わかってしまった。

「……これは、彼女の力じゃ、ない」

知っていた。わかっていた。なんとなく、そんな気はしていた。
でも、今の記憶で思い出した。わたしは、ウズメは、間違いなく戦いのための力を一切持っていない。当然、治癒術だって使えない。
基本的に、みんな前世の力を使っている。エルはまだうまく扱いきれなくて、とにかく拳に乗せているところはあるけれど……それは、もともと肉弾戦も得意だったヴリトラだからできる芸当だ。わたしは同じようにはいかない。
だから、今。彼女の転生者であるわたしが治癒術を使えるのは、おかしいのだ。

わたしは、ウズメではない誰かの力を借り受けている。
思い出せない誰かの
どうして、別の世界に転生したのだろう。
どうして、他の誰かの力を借り受けているのだろう。
アシハラで会った、ウズメに許されたいと願っていた人の言っていたことに、何か関係があるのだろうか。
だとすると、ウズメの方が罪を重ねている気がするけれど。わからない。
何も、わからなかった。