いつの間に寝たのだろう、という疑問の答えは、ルカが昏睡状態になって二日目の朝、今度はわたしが倒れてしまった、というとても単純なことだった。
理由はもちろん、治癒術の使いすぎ。
「言っただろ。根を詰めすぎないでって」
わざわざ部屋に来て、説明してくれたコンウェイさんが、呆れた声でそう呟く。
ぽんぽんと布団越しにあやされるのは心地良いけれど、それでも倒れるほど弱っていたせいだろうか。とても申し訳なくて悲しくて悔しくて、わたしはもぞもぞと布団に潜って、ぼそりと呟いた。
「だってわたし、回復しかできないのに」
そうだ。わたしは治癒術しか使えない。
それだって十分凄いじゃん、と楽観的に考えていたけれど、ダメだ。ダメだった。守れなかったし、怪我も治しきることが出来なかった。わたしにはそれしか出来ないのに、それすら出来なかった。
ルカに突き刺さった槍が、ゆっくりと倒れていく姿が、そこから溢れ出して止まらない血が、頭の中から離れない。
戦場にいた時よりもずっとずっと怖くて、こわくて、こわくて。
わたしだってあの頃より強くなれたはずなのに、なにもできなかったこと。
「この治癒術だって、ウズメの力じゃないの。別の誰かのものなの。そんな、誰かに借りたものなのに、これしかできなくて……それなのに、わたし……っどうしようコンウェイさん。ルカが、ルカが死んじゃったら。わたし、わたし、なんで」
「ミオ」
「なんでわたし、こんな場所に来て、こんな力を手に入れたのに、友達一人も助けられないんだろう」
ぼろりと涙が落ちる。思わず強く目をつぶった。
呼吸すら苦しくて、うまく出来ない。布団の中にいるのに震えが止まらない。
あああダメだ、ダメだダメだ。こんなに落ち込んだらダメなのに。迷惑かけちゃうのに、ダメだ。ルカが死んだら。わたしの大事な友達が死んじゃったら。
わたしにだって、誰かを守る力があるはずなのに。大切な仲間に何も出来ないまま死んでしまったら、どうしよう。
「ルカくんは死なないよ。絶対に」
そっと、コンウェイさんの声が落ちてきて、布団の上から頭を撫でてもらっている感覚がして、目を開く。
布団をかぶっているから、彼の姿は見えない。けれど、私の頭を撫でる手は優しくて、声もしっかりとして力強くて。何の心配もいらないと言い切るものだから、わたしは少しだけ肩の力が抜ける気がした。
「……なんで言い切れんのさ」
「逆にどうして言い切れないんだい?」
くす、と笑うコンウェイさんには、心からそう信じているようだ。
絶対に大丈夫だと。ルカは死なないと、それが当然だとばかりに、はっきりと言葉にする。
「心配せずとも、ルカくんは死なない。必ず目を覚ます。そしてたどり着くんだ。生きたまま、真実に」
「真実……?」
「彼は絶対にボクたちを導いてくれる。だから平気さ」
ぽんぽん、と。頭を撫でていた手が離れて、また布団越しに叩かれる。
寝かしつけるような動作に、だけど確かに落ち着いていく気がして。今度は、安心しながら、目を閉じた。
「コンウェイさんは、何が目的なの……」
「魂の救済」
「なに、それ。なんなの」
「少なくとも、ミオを泣かせるようなことじゃないよ」
いつの間にか傍に近寄っていた眠気が、わたしを引っ張っていくのに抗えない。意識が落ちていく。
でも、さっきよりは心が落ち着いていて、いつの間にか震えも止まっていて、本当にルカは助かるんだと安心しきっている。
まだわからないのに。でも、信じられる気がした。
「眠るまでは一緒にいてあげるから、ゆっくりおやすみ。大丈夫。キミの仲間は誰も死なない。怖がることはないよ」
コンウェイさんの声が、そうっと耳に響いて。
じゃあ、大丈夫だねって、意識を手放した。