ルカが怪我をしてから三日目の朝が来た。
倒れてしまったわたしの方は、もう大丈夫だ。体調が悪い気配もない。
だから、ルカの様子を見に部屋を出たところで、わたしは一度大きく深呼吸をする。
……コンウェイさんは、大丈夫だって言ってた。絶対に大丈夫だと。ルカは死なないって。だから、大丈夫。安心して、彼の部屋に行こう。
そう言い聞かせてから足を踏み出して、廊下を歩きながら、それにしても、と首を傾げた。
なにやらルカが寝てる部屋が騒がしいことに気付いたのだ。何かあったんだろうかと足を早めると、涙目になったイリアが勢いよく部屋かた出てきた。
どうしたの、と声をかけると、イリアはわたしを見てぽたりと涙を零して。それからばーか! と叫んだ。
「もう! あんたもなんだからね!」
「えっあっごめん」
「バカ! おたんこミオ! 無理しすぎてるんじゃないわよ! 体調管理くらいしっかりしなさいよね! ばーかばーか! バカミオ!」
そう言い捨てて、大股で借りた部屋へと戻っていく。
……反射的に謝っちゃったんだけど、要するにアレだね、心配かけやがってチクショウってことだね。後でもう少しちゃんと謝っておこう。
「あーっミオ姉ちゃん! もう起きてええんか?」
イリアに続いて部屋から出て来たエルが駆け寄ってくる。
そのまま抱きついてきたから頭を撫でてやれば、彼女は嬉しそうに笑い声をあげた。
「ごめん、エル。心配かけた」
「ほんまやで! まったく。ルカ兄ちゃんといい、まだまだ目が離せんなぁ」
背後に回り込まれて、ぐいぐいと押されてルカの部屋に入る。
やっぱり騒がしい、部屋の中心。
そこで、アンジュさんに見守られながら、今にも泣きそうな顔のスパーダが、彼を抱きしめていた。
彼はわたしに気付くと、スパーダから離れてやんわりと微笑む
いつもと変わらない、ちょっと気弱そうな笑顔をわたしに向けた。
「ルカ……?」
「うん、僕だよ」
「っこの、ばかぁ!!」
「うぐっ」
思わず頭を思いっ切り叩いてしまった。
ああでも、ああ、夢じゃない。
本当に本当にルカだ。ルカが目を覚ましたんだ!
「ちょ、ちょっとミオ! ルカくんはまだ病み上がりなんだから……」
「心配かけて! 心配! かけて! ば……ばかぁあ〜」
一気に気が抜けてへたり込む。
よかった。よかった。本当によかった。死んでない。ちゃんと生きてる。動いてる。
ルカは、ちゃんと生きてる。
「ご、ごめんね、ミオ……」
「もう平気なんだね? 大丈夫なんだね? 死なないね?」
「うん。大丈夫だよ」
座り込んだわたしに手を伸ばして、にこりとルカが笑う。
わたしを励まそうと気を使った笑顔は、怪我をする前のルカと何も変わらない。わたしは思わず、屈み込んできたルカの両頬を両手で包んで、じっとルカを見た。
コンウェイさんの言った通りだった。
ルカはちゃんと生きてる。無事だ。
でもやっぱり、怖かったから。誰か自分の知ってる人が死んでしまうかもしれないってことが、こんなに怖いものとは思わなかったから。
もう二度と味わいたくない。だから。
「わたし、もっと頑張る。もう誰も怪我なんかさせないから。ルカもみんなも、守ってみせるからね」
これが誰の力だって関係ない。
絶対、絶対。
誰も傷付けさせやしないって、誓った。