37-2

「行き止まりみてーだな」

結局、たどり着いた最奥は大きな岩によって道を塞がれていた。
他に道は無かったから、やっぱり、今のカリュプス鉱山は抜けられないということだろう。見たことない魔物、というのに遭遇しなかっただけマシなのかもしれないけれど、大きな岩が行く手を阻むのを見て、誰とはなしにため息を零す。

「他より落盤の規模がずっと大きいみたいだね」
「……で、ここからどうするの?」
「しぃっ! 静かに……何か聞こえない?」
「またまたぁ。ウチらを驚かそ思うて、その手は前にアンジュ姉ちゃんがここで使うて……」

コンウェイさんの言葉をエルがからかおうとしたけれど、わずかに地面が揺れていることに気付いて、口を閉ざした。
断続的に、しかもだんだんと大きくなるそれは地震ではなさそうだったけど……それでも、ぞわぞわと背筋を悪寒が走るのを感じて、わたしは飛びついてきたコーダと共に後退りする。

「ヘソがまたピリピリだぞ、しかし。これはもしかしてもしかするぞ、しかし!」
「確かに聞こえる……地響き……?」
「落盤か!? 隠れられる場所を探せ!」

リカルドさんの声に、みんなが駆け出す。
わたしもみんなと一緒に岩陰に隠れて、じっとしていると、突然行く手を阻んでいたあの岩が割れて飛び散った。
衝撃であたりを土煙が覆って、悪くなった視界にみんなの声が響く。

「なに!? なんなの!?」
「なんだあれ!?」

少しずつ晴れてきた土煙の向こうに、それはいた。
紫色の大きな体はゼラチンのようにぶよぶよとして、お腹の中に赤く光る何かを浮かべている。見たことのない魔物だ。これが、町の人が言っていた魔物なのだろう。
そして、それと対峙する少女が一人。
体中に傷跡が残る、眼帯の女の人。槍を持った彼女はそのぶにぶにした魔物に何かを言っているが、どこか異国の言葉のようで聞き取れない。でもこの言葉、つい最近聞いた気がする。

「あの言葉……まさか!」
「……あ。これ、コンウェイさんと同じ……?」

そうだ、と思いついた時には、彼女は魔物の大きな腕によって突き飛ばされた。
地面に叩きつけられるのを見て思わず悲鳴がこぼれる。

「大丈夫かいな姉ちゃん!」
「く……行けぇ!」

コンウェイさんの本が光って、憂いの森の時のように相手を囲む。物理法則をなんたらするんだっけ。あれだ。
わたしはその間に彼女を回復しようと駆け寄る。すると何故かコンウェイさんもやってきて、彼女を抱き起こした。

「起きろ!」
「回復します!」

いいのか悪いのか、散々ルカに使用したから、治癒術の使い方が以前より上手になってと思う。
以前よりも傷を治すスピードが上がったのがわかるけれど、気は緩めない。そしてわたしが彼女に治癒術を施している間、コンウェイさんは二人であの異国の言葉でやりとりを交わしていたようで……やがて、少女はぐっと立ち上がった。

「キュキュ……戦う。一緒に、お願い!」
「……どうやら選択の余地はなさそうだな」

治療中、どうしても無防備になるわたしを庇うために近くに来てくれていたリカルドさんの言葉に、はっと魔物を見る。
もうすでに戦闘は始まっていて、あのぶにぶにした腕がこちらに振り下ろされようとしていた。

「天よ……フォトン!」
「うわわわっ」
「サマーソルトシュート! プリズムワルツ!」

ぶにぶにしたそれがこちらに飛んでくるのを見て、動揺するわたしを庇うように少女が槍を振るう。
その間にわたしはそこから離れると、一気に全員を支援しようと詠唱を始めた。そう、詠唱。詠唱をする結構すごい治癒術、わたしだって覚えたのだ。

「えい! たあ! 裂空斬!」
「いったぁ! やりおったな!天翔龍神脚!」
「白き天の使い達よ、その微笑みを我らに……ナース!」

広がる光が、全員の傷を癒やしていく。わたし自身は攻撃できなくても、みんなのことは守れる。傷付けさせない。その思いで覚えた治癒術だ。
みんなの傷を癒しながら戦えば、やがて相手の動きがようやく鈍ってきたところで、少女が大きく槍を振り下ろした。

「ウォニスラン、イグォスェックナル! トドメ! インペリアル・スピア!」