「事情を説明してもらおうか、コンウェイ。彼女は何者だ? ……と、うわ!」
無事に魔物を倒したのを確認してからリカルドさんが問うと、突然女の子がリカルドさんに抱きついた。
さすがのリカルドさんもそれにはびっくりしたらしく、両手を所在なさげにふらつかせている。
「彼女の名はキュキュ。どうやらボクと同郷みたいだね
「すまんが、彼女に離れるように言ってもらえんか?」
「それ、彼女なりの感謝の印みたいなんだけど、ホントにいいの?」
「構わん、早く伝えてくれ! そもそも、なぜ俺に抱きつく?」
「さぁ? あなたがボスだと思ってるんじゃないかな」
「いいから、早くしろ」
必死の頼みに、コンウェイさんは一瞬楽しそうに笑って何か話しかける。
なんとなく嫌な予感がしたけど、気付かなかったことにしよう。
キュキュさんはリカルドさんから慌てて離れると、何故だか「うわぁ」という呆れたような軽蔑するような、でも仕方ないよねと慰めるような複雑な顔をした。
「おいコンウェイ。彼女に何を言った? 明らかに今、俺を見る目が変わったぞ」
「あなたがボスじゃないって言っただけ。そしたら、人は見かけによらないってさ」
本当にそれだけかよ、と隣でスパーダも呟いたが、確認する手段もないのでやっぱり気付かなかったことにしたようだった。
キュキュさんは代わりにくるくるとその場で回りだして、イリアが不思議そうに首を傾げる。
「なに、この人。リカルドに抱きついたかと思えば、急に踊り出して……」
「彼女の民族は感情表現が豊かなんだよ」
「じゃあコンウェイさんも?」
「民族が違うからしないよ」
「同郷ではないのですか?」
「言葉は通じるけど、生まれた国が違うんだ。まあ、詳しいことはおいおい説明するよ。そんなことより……ほら、門番を倒したからゲートが開くよ」
彼が言ったと同時に、何かの扉が開くように光が満ちる。その先に、どこか違う景色が見えた。
記憶の場で記憶を見るのとはまた違う感覚だ。あれは、白昼夢のように、自分自身がそこにいるかのように記憶を見ることになるのだけれど……これは、扉の向こう側。画面の向こう。わたしたちとは違う何か。そういう、明確に「違う」という認識が残ったまま、映像が再生される感覚がある。
これってどんな意味があるんだろう。もしかしたら、こことも、わたしの世界とも違う、それこそコンウェイさんが来たと言う世界とか、そういう……もっと違う世界の様子が見えているのかもしれない、となんとなく思った。
「ねぇ、この人、さっきちょっとだけ僕たちと同じ言葉を話してたけど……」
「ああ、そうだね。ちょっと聞いてみるよ」
コンウェイさんがペラペラと何かを伝えると、彼女は神妙な顔で頷いた。
「はい、わかた。でも、あまり上手ない。いいか?」
「それで十分だよ。さあ、みんなに挨拶して」
「名前は、キュキュ。みんなと一緒、行きたい。キュキュは強い。役に立つ」
「なにぃ? こいつ、付いて来るつもりかよ?」
キュキュさん、は、カタコトの言葉でにっこりと笑う。おお、ちゃんと喋れるのか。すごいな。
よくわからないけど、わたしたちに付いて来るつもりらしい……コンウェイさんもやけに付いて来たがってたし、あっちの世界の人たちにとって、この世界って何か特別だったりするんだろうか。
そういやちゃんと日本語通じてて嬉しいなー、とか考えている隣で、スパーダがあからさまに嫌そうに顔をしかめた。キュキュさんを警戒しているようで、じろじろと見てはどんどん眉間に皺が刻まれていく。
「みたいだね」
「みたいだねって、こんな得体の知れないのを……」
「でも、この人言葉もあんまりできないみたいだし……」
「置き去りにするのは、ちょっと……」
「キュキュはひとり。言葉上手ない。置いていくのか?」
しょんもりとするキュキュさんに、スパーダがうっと言葉を詰まらせる。
助けを求めるようにわたしをチラチラと見てきたが、うん。当然、わたしは断れない。
「確かによくわからないけど、一人って寂しくない? 言葉も不自由なところに一人放置とかさあ……そんな見捨てるようなこと、するの……?」
ちょっとわざとらしく、かわい子ぶるようなノリでそう言えば、スパーダはガシガシと頭を掻いて、あーっと大声をあげた。
ごめんねスパーダ。でもやっぱり、知らない世界に一人でいることの心細さを知っているので、わたしは彼女の見方をするしかないのだ。
「ああ! わかったわかった! みんながいいならオレもいいよ!」
「良かったなぁ姉ちゃん。一緒に来てええって! 旅の仲間は多いほうが楽しいもんなぁ」
「キュキュも行っていい ?嬉しい! ありがとう!」
「うわっ!」
ガバァッと抱き付かれて思わずよろめく。
最後の一押しをしたからか、キュキュさんはわたしにうんっと抱きついてくると、すごく嬉しそうな笑みを浮かべた。
あ、柔らかい。どこがとは言わないけど。
「さっき、ケガ、治してもらた! ありがとう!」
「あ、ああ、うん……それくらい気にしないでよ。わたしも庇ってもらったし、ありがとう」
さっきの戦闘を思い出して、わたしからもお礼を返しておく。
キュキュさんもそれに満足そうに笑ったけれど、突然ハッとして後ろに飛び退いた。
なんだなんだと思っていると、何か早口にコンウェイさんに問いかけている。
彼はちょっと悩んだ素振りを見せてから何かを答えて、それからキュキュさんはとても安心したように笑って、またわたしに抱きついた。
「よかた!」
「何が!?」