38-1

ガルポスへ向かう船の上。
船旅にもすっかり馴れまして、誰が船酔いしようが慌てることなく対処できるようになり、むしろ船の中をあちこち歩いて回ってる時間の方が多くなりました。
……いや、うん。ごめん。歩き回っている時間が多いと言いながら、わたしは今、影に隠れてうずくまって聞き耳を立てているので、全然説得力がない。どちらかというと不審者力しかない。
でも、だって、気になるじゃない。そう思って、物陰からそちらを見る。
二人っきりで何かを話す、コンウェイさんとキュキュさんの方を。

「……キミの生まれは、国境のどっちだ?」

正直ちょっと遠いし、大半が自国の言葉を使っているみたいで、何を話しているのかまったくわからないんですけどね!
ただ、キュキュさんも自国の……トライバースだっけ、の言葉を使いながらコンウェイさんを睨んでいて、二人の間に嫌な空気が漂っているのだけはわかるので、まあ、意味もなくここに隠れて様子を見ているわけじゃない。
確かに甘い空気とかじゃなくて、ちょっと安心したとか、ある。よかった〜いやほら全然そういう行動はしてないけどさ! こう、ね! 保護されている身としても片思いしている身としても、同郷の異性とかすっごい気になるじゃん!
いやでも、コンウェイさんがあそこまで素直に敵意をむき出しにしてるって珍しいし、これは逆にフラグになるのでは、と思うと全然何も解決はしないんだけど。うん! そうです! そんな感じの理由でストーカーみたいに物陰から様子をうかがってます! ごめんなさい!
誰に向かってなのかわからない謝罪を繰り返しながら、うんうんと頭を抱える。
わたしは何をしてるんだろうか。本当にストーカーみたいじゃん。でも気になるじゃん。

「さっきから何を唸ってるの」
「いや……別にコンウェイさんとキュキュさんが気になったとかそんな……ん?」

バッと振り返ると、向こうで話していたはずのコンウェイさんとキュキュさんが、いつの間にかわたしの後ろに回り込んで、覗き込んでいた。
にっこりと笑った彼は、物陰でうずくまって呻いていた……あ、こう書くとすごく不審者だな……な、わたしを見ている。

「こんな物陰で、何が気になったって?」
「コッ……ンウェイさん!?」

驚いて詰まってしまった勢いで、何か誤魔化そうと思うけれど。素直に答えなさいという視線が突き刺さって、何も言えない。
でもストーカーしてましたとか言いにくいし、どうしよう、としどろもどろになるわたしを、キュキュさんも不思議そうに覗き込んできた。

「ミオ、どうかしたか?」
「あ、ああー、いや、えっと」
「ああ、ボクをとられたとでも思った? ミオは甘えん坊だね」
「ちっちーがーいーまーすー! あ、いや、あんま違わないのかもだけど!」

思わず否定した。けど、まあ、そんなに間違いじゃないなと思って再び頭を悩ませる。
素直に認めるのは恥ずかしい。だって単純明快な言葉にすれば、わたしはキュキュさんにやきもちを妬いていたということなのだから。初対面の女の子にそんな嫉妬しましたなんて言いたくないし。どっちかというと仲良くしたいし。同郷ゆえにわかることとか教わりたいし、だから仲悪くなんてなりたくない。

「た、ただその、まあちょっとアレだし、でもどうせなら仲良くなりたいなって、思って……」

そう、そう。仲良く、なりたい。
二人のこと、もっと知りたい。知りたいからこうしてこそこそ聞き耳を立てていたのだ。それは嫉妬もあるけれど、何より、仲良くなりたい、知りたい、という欲求からくるもので。
うー、あー、って意味のない言葉を繰り返すわたしを辛抱強く見守ってくれている二人のこと、もっと、知りたい。もっと、わたしを。

「わ……わたし……抱き締めるならわたしだけにして!」

効果音がつきそうな勢いで、たぶん顔も真っ赤にしてわたしはそう言った。
両手を思い切り広げて、混乱を極めた頭で、キュキュさんに向かって、大声で。
きっと二人以外にも聞こえてしまっているだろう。そんな声で。

何かおかしい。うん。そんな気はする。でも、ほら。キュキュさんがコンウェイさんに抱きついたりしてしまったりしたらなんかもういろいろと立ち直れないような気がするから、間違いじゃないと思う。それにほら、抱きしめるって、こう、親密な感じだし。仲良くなりたいからという気持ちに正直になれば、これは正しいはずだ。
でもあれ、なんかこれだとキュキュさんと仲良くしたいのにコンウェイさんが邪魔みたいな感じするな。あれ、わたしはキュキュさんだけじゃなく、コンウェイさんとも仲良くしたいんだけど、あれ?
混乱してしまったわたしに、コンウェイさんも少し困ったように笑う。

「それは、何か違くない?」
「わたしもそんな気がします」
「わかた」

冷静な声にわたしも落ち着こうとするけれど、それより先に、すっと、真剣なキュキュさんの声がした。
キュキュさんはわたしをじっと見つめて、それから強気に笑みを浮かべてみせる。

「本気のお願い、伝わった。キュキュ、ミオ、守る!」

お、おお……なんか勢いで変なことを言ってしまったのだけど、彼女は本気でそれを受け止めてくれたようだ。
しかも、守るって。女の子にだけど、ちょっと言われてみたかったセリフだから、キュンとしてしまった。

「キュキュさん……いや、キュキュ!」
「はい!」

ガバッと思わず抱きついたら、キュキュもしっかりと抱きしめ返してくれる。
す、すごい。強そうで優しい抱きしめ方に胸がときめいた。少し、妬いてしまっていたけれど、とてもいい子なんだなって思って、申し訳ない気持ちも抱きつつ。
これはこれでいいか、ととりあえず柔らかい彼女との抱擁を味わうことにした。