港から一番近いということで最初の目的地に設定されたベラニックという町は、港近く、という条件を持つ町だというのに、とても寂れた所だった。
例えるならそう、昔テレビで良く流れていた、世界の貧困地域。暗い顔をした人々が路上に寝そべって動かなかったり、小さな子供たちが暖かな家ではなく外に出て仕事をしている。それなのに音がほとんど聞こえない。みんながうつむいているような、そんな町。
空が曇っているせいか、余計にどんよりと暗く見えるその光景の中で、必死に何かを拾おうとしている子供たちを見て、アスベルは首を傾げた。
「あの子達、何を拾っているんだ?」
「……砂ほどの大きさもない輝石のかけらだ」
答えてくれたのはマリクさんである。
どこか神妙な顔の彼に、わたし達は一回顔を見合わせる。
「輝石のかけら?」
「そんなものを拾ってどうする気でしょうね」
「……かけらを集めてストーブの燃料にするんだ」
「ストーブの?」
輝石が燃料になるのは、これまでの説明と経験でなんとなくわかる。でもストーブの燃料用の輝石を集める、なんてことを小さな子供がしているところなんて、これまでの国では見たことがない。
そもそも、そんなに困窮している人が少なかった、と言う方が正しいだろう。だから困惑するのはわたしだけではなくて、この国に訪れたことのあるパスカル以外、他のみんなも同じだ。
ラントと国境でにらみ合っているこの国は、そんなに追い詰められているのか。そう言いたそうなみんなを避けて、マリクさんは子供達に近付く。兄妹らしい小さな子供達は、マリクさんに対して笑顔を向けてくれた。
「集まってるか?」
「ううん、あんまり」
「俺達の家は宿屋だから、お客の部屋の分も集めなくちゃなんないんだ」
「そうか……」
「燃料用の輝石は流通してないのか?」
「この国は輝石の産出量が少なく、その殆どを帝都に住む富裕層が利用している。人々の暮らしが困窮しているにも関わらず政府は動こうとしない……それがこの国の現状だ」
「はっくしゅん! にいちゃん、寒いよ……」
どの世界でも変わらない、貧困差というものを実際に目の当たりにして何も言えないでいるところで、妹さんが小さくくしゃみを零した。
ぶるりと体を震わす妹さんの額に、お兄ちゃんはそっと自分の手を乗せる。少し熱を計ってから、安心させるように柔らかく笑った。
「熱があるな。にいちゃんが集めておくから、お前は先にお帰り」
「でも……まだ全然集まってないよ」
「大丈夫だって。いざとなったらストラテイムの角をとってくるよ」
「ストラテイム! む、無理だよにいちゃんやられちゃうよぅ」
「む、無理でもやってやるさ! おれだって男だ、任せとけ」
顔色をサァッと変えた妹さんに、だがお兄ちゃんは大丈夫だからと彼女を家に帰るよう言葉を繰り返す。
ストラテイム。確か、途中で何回か出くわした魔物のはずだ。凶暴で、なかなか強かった。わたしたちでも大変だったんだから、こんな小さい子が倒すなんて無理だろう。明らかに妹さんをおうちに帰したいだけの方便だろう。
「ストラテイム……って途中にいたあれ? あれって子供だけじゃ難しいんじゃ……」
「ああ、無理だな。ストラテイムは輝石を食べる魔物で、摂取したその原素を角に蓄積する。だがあの凶暴さで、毎年のように犠牲者が出ているのさ」
「わたしたちが拾った分、あげていいかな?」
「いいと思うよ。食物連鎖で高位の魔物なら輝石の成分は凝縮されるから……不純物の分も差し引いても5本もあれば足りるんじゃないかな。足りる?」
パスカルが問えば、アイテムを漁っていたシェリアがコクリと頷いた。
5本のストラテイムの角を持って、幼い兄妹の前にそっとしゃがみこんで、シェリアも妹さんの様子を見る。
「……風邪のようね。早く暖かい所で休ませた方がいいわ。これをあげるから、あなたが家まで連れて帰ってあげて」
「で、でも……」
遠慮がちに首を振る兄に、だがシェリアは優しく笑ったままだ。
やがて兄は嬉しそうに、だが申し訳なさそうにふにゃりと笑った。
「ありがとうにいちゃん達! 宿屋に来てくれれば、何かお礼するよ!」