87.少しだけ、寄りかかって

ふわりと笑ったアスベルに、わたしは思わず目を瞬かせた。
だって、そんな言葉が返ってくるとは思わなかった。今わたしがした吐露なんて面倒なことで、答えも出ないようなもので、聞かされたって困るようなことだったのに。
なんで、こんなに優しく笑っているんだろう。
わたし、今弱音を吐いてしまったのに。自分だけで解決しなきゃいけないことを言葉にしてしまったのに。
どうして、やっと言ってくれた、なんて、言うんだろう。

「お前、いつも何も言わないだろ。ラントの花畑だってバロニア城でだって、明らかに無理してるってわかる顔してるのにさ。強がりばかり言って、何も言わない」
「……そうだっけ?」
「そうだよ。だから目が離せない。だからつい、怒ったりして……言ってくれたら支えてやれるのにって」

遠くを見るような視線に、そういえばそうだったかもしれないと思い出す。
あの時も怖くてガタブルだったけど、なぜかそれでも一緒にいなくちゃいけないような気がしていた。怖いなんて言っていられないって思っていた。
……いや、今も、か。
今も、わたしはここにいなくちゃいけないような気がしてる。どうしてだかわからないけれど。怖いって気持ちを無視してでも進まなくちゃいけないって、強く思っている。
どうしてなだろうなあ、ってぼんやり考えていれば、アスベルはそうか、と声を漏らした。
少しびっくりしているような、そんな顔。

「そうだな、多分、言ってくれない事が一番嫌だったんだ。俺は……思ってるよりずっと、シオリが好きで、力になりたくて……そうだ、好き……好き、なんだ」

びっくりして、でも納得ですっきりした、というように何度も言葉を紡ぐ。
……何に納得してんのか知らないけど、そういう確認は誰もいない所か一人でやっていただきたい。
彼が言っているのは友愛としての好きだとわかっているけれど、なんというか、わたしに言われてる気分だ。告白されているみたいで、なんとも気恥ずかしい。

「あはは、そんなに連発しないでよ。照れちゃうじゃない」
「え? あ、わ、悪い」

わざとらしく笑ってみせれば、赤くなって慌てて謝る彼に、今度はわざとではなく本当に笑い声が漏れる。
アスベルは、本当に優しいと思う。包容力があるというか、つい頼って弄って隣にいたくなるというか。
だからソフィもシェリアもヒューバートさんも……リチャードも。みんなアスベルが好きなんだと思う。
だから、わたしは彼を支えはしても、支えられたりしないようにしてたのに。優しいんだもんなあ。

「……アスベルは少し、背負いこみ過ぎじゃない? リチャードとか、ソフィとか、ラントとか……それなのにわたしの分まで背負いこみたいの?」
「むしろ背負いこませてほしいな。シオリと同じ物を持ってみたい」
「ん〜……それは……難しい、なぁ。わたしもわかんないし、そしたらずっと弱音しか言わなくなっちゃう」
「言ってくれた方がずっと嬉しいさ」

こうやって、優しい事ばっかり言う。
笑ってくれる。
怒ってくれる。
守ってくれる。
傍に、いてくれる。

「……じゃあさ……ちょっとだけ、お願い、しても……いいのかな」

だから甘えてしまうんだ。
頼ってしまう。いつかそれが重荷になるかもしれないってわかっていても、縋ってしまうんだ。
……ずるいなあ。

「……ぎゅっと、させてくれる?」

さすがに素直になるには、お酒の力を借りたって恥ずかしかったから。腕で顔を隠してしまったので、彼の顔は見えなかったけれど。この雪の中に在る優しい白は、きっと、やっぱり、笑ってくれたのだろうと思う。
そっとわたしの手を握って、くいと僅かにそれを引っ張る手は冷たいのに優しくて力強くて。降ってきた声は、いつもと何も変わらなかったから。

「それくらいならいくらでも」

ぎゅっと、勢いに任せてアスベルの首にしがみついた。
無理な姿勢で起き上がったくせに、不思議と辛くはない。
ただ、隠し事を沢山しているという罪悪感と、なんだかとても満たされて包まれていくような感覚に、わたしは抱き締める力を強めた。
……もう少しだけ。離れたら、またわたしになるから。
だからもう少しだけ、こうしていたかった。