88.超えて、その向こう

「ここから船に乗ると帝都ザウェートに行ける」

ベラニックを出てからしばらく歩いた先にある港に到着するなり、そう説明してくれるマリクさんを見て、ヒューバートさんが眼鏡を押し上げて疑わしそうな視線を向けた。
どうにも彼は、わたしとパスカルとマリクさんが疑わしくて堪らないらしい。
朝ベラニックを出る時も、昨夜ソフィとお話していたらしいマリクさんをじろりと見ていた。アスベルに抱き付いた後、なんだか無性に恥ずかしくなった自分としては、そっちを突っ込まれなくて安心したりしていたんだけれど。
……ちょっとだけ、吐き出したからかな。昨日までよりも随分と楽になった気分に、こっそりと笑う。

「あなたはフェンデルの事情に随分と詳しいんですね」
「おかしいか?」
「いいえ、別に。何故そんなにフェンデルの事情に明るいのか不思議に思っただけです」
「教官もいい年なんだし、いろいろ詳しくて当然でしょ」
「……悪かったな、いい年で」

よく考えないでフォローしたらしいが、逆にジトリと見られて、パスカルはわたしの後ろに隠れるようにして笑った。
そんなどこまでもふざけた姿勢にイライラしたのだろう。ヒューバートさんは拳を握って少し怒鳴った。

「ごまかさないでください!」
「ごまかしてないよ! あたしは正真正銘22歳のぴちぴちお姉さんだよ!」
「そしたらわたしもぴちぴちお姉さんになるなぁ」
「だから年の話じゃなくて……」

うん、やっぱりズレてるよパスカル! と思いつつ、険悪な空気になるよりもマシかと思ってわたしもそれに乗れば、ヒューバートさんがわなわなと震え出す。
少しからかい過ぎたかな、と謝ろうとしたら、それより先にソフィが動いた。わたし達の間に立って、ヒューバートさんをじっと見つめる。

「けんか、だめ」

言われて、深く息を吐いたかと思うと、彼は輪から外れて眼鏡を押し上げた。どうやら深呼吸をして心を落ち着けようとしているらしい。
彼、かなり疑り深いというか、警戒心の強い人だけれど。ソフィには結構素直に甘いところがある。でもやっぱり、彼に近しい人から見ればハラハラとしたやり取りに見えるのだろう。
ヒューバートさんの代わりのように近付いてきたアスベルが、パスカルに申し訳なさそうに謝った。

「ごめんパスカル」
「あたしは気にしてないよ。平気平気」