90.蒸気機関、霧の町

「ここがフェンデルの帝都ザウェートか……」

ポツリと呟いた街は、雪に追加されて霧に覆われていて、どこか懐かしい感じがした。
どこで見たんだろうなぁと考えて、そうだ教科書だ、と思う。昔のえーと、蒸気機関とか。霧の町ロンドンとか。そんな、本の中で見た写真と雰囲気が似ているのだ。さすがにここまでどこもかしこも蒸気管のパイプが通って……というわけではなかったけれど。なんとなくの雰囲気は似ていると思う。

「随分霧が濃いわね」
「フェンデルは蒸気機関技術が発達した国です。吹き出した煙が霧となり街を覆っているんでしょう」
「ヒューバートさんはフェンデルの事情に詳しいんだね」

ちょっと嫌がらせでそう言えば、しっかりと通じてしまったのだろう。
彼は一回わたしを睨んでから、当然です、と話し出した。

「仮想敵国に関する情報は、可能な限り押さえておくのが常識です」
「仮想敵国って……ストラタはフェンデルと戦争するつもりなのか?」
「その可能性は昔から常に言われていますね」
「そんなことになったら、確実にラントも巻き込まれるわ」

どうしよう、と青ざめるシェリアに、マリクさんはチラリと市街地方面を見やってみんなを急かした。
バタバタと鳴る足音が聞こえてくる。賑やかな子供たちの遊ぶ音ではない。ここに来るまでも何度か聞いて、なるべく鉢合わせないようにと避けてきた音だ。

「こんな所でいつまでも話していると兵士に目をつけられるかもしれない。急いで……」
「いや、ちょっと遅かったみたいですよ、マリクさん」
「動くな!」

ガチャ、と銃を突き付けてきた兵士達の姿に、わたしは小さくため息をついた。