手分けして、という事で、マリクさんとソフィ、パスカルとシェリア、そしてわたしとアスベルとヒューバートさんの三班に別れて行動する事になった。
班分けはヒューバートさんが決めたものなので、必然的に彼の中で怪しい人だけにならないようになっている。うんうん、よく考えられていていいんじゃないかな。
あとこれはすごーく関係ないことだけど、やっぱりこの世界の人たち、基本的に顔がいい。
「じゃあ、大輝石の力を使って、わたし達の生活を良くしようという実験が行われるんだぁ」
「もう忙しくって……思わず逃げちゃったけど、やっぱり頑張らなきゃよね」
「でも、そのおかげであなたに会えたんだから、少しだけラッキーかな」
「なぁに、上手いわね。じゃあ私行くわ。いい気分転換になった。もう一頑張りするわ」
そう笑って歩き去った女性の軍人に手を振ってから、傍で待っている二人の下に戻る。
今し方仕入れた情報を話せば、ヒューバートさんはヒクヒクとこめかみをひきつらせた。
どうしたんだろう。ちゃんと情報は持ち帰ってきたのに。何かを堪えるような態度に、アスベルと揃って首を傾げる。
「……いいでしょう。情報が得られている事は認めます。ですが! あなたのそれは俗に言うナンパと変わりません!」
ああ、そういう事か。
つまりヒューバートさんは、わたしのナンパ的な聞き込みが嫌だと言っているのだ。……別に、そんなつもりはないんだけど。なんか風紀委員とか似合いそうだなぁこの人。
「違うよ、ヒューバートさん。わたしはただみんなと仲良くなりたいって気持ちであいさつをしているだけであって、ナンパではないよ」
「何が違うんですか!」
「誠実な態度が違う」
「やれこんな素敵な人に会えるなんて嬉しいだとか、外から戻ってきてくたびれたけれど君に会えたなら頑張ったかいがあったかなとか、不誠実な下心がちらちらと見えていた気がしますが」
「違うよ、ヒューバートさん。いい? 人とコミュニケーションをとるときに大事なのは、あいさつ、感謝、相手を褒めること、だよ。わたしは挨拶として出会えた感謝をしただけ」
人とコミュニケーションをとるにあたって大事なことはこの三点であるとわたしは思っている。
何より大事なのはあいさつ。自分は相手にとって害のある人間ではないときちんと表明し、あなたと仲良くなりたいと思っていることを端的に伝えるためにも、あいさつは大事だ。
その時の反応で距離感の詰め方だって変わる。人によって心地よい距離感って違うしね。人見知りの人にぐいぐい行き過ぎるのもよくない。あいさつをした時のリアクションでだいたいわかるし、まずあいさつ。間違いない。
感謝の気持ちを伝えるのも当然のこと。これも大事。相手にしてもらったことを大切にするのは、相手を尊敬していると伝えることでもある。してもらってばかり、やってばかり、は関係性としてもよくないからね。感謝したら素直に伝えるべきだ。
それから最後。褒められて嫌な気分になる人はそんなに多くない。いや、褒められ慣れてなくて戸惑う人はそれなりにいると思うけれど、基本的に多くない。慣れていない人にはもちろん話し方を変えて、違う方向で話をする方がいい。
……つまるところ。人によって違う適切な距離感をつかむために、あいさつ、感謝、相手を褒める、が大事なことだとわたしは思うのだ。
そしてその三点を抑えて距離感を適切に保つということは、相手に害をなす人間ではないと主張できるということ。心を、ほんの少しでも開いてもらいやすいということ。少なくとも、相手が嫌がるほど距離を詰めなければ、無用な衝突は避けやすい。
笑顔があればもっといいけれど、顔がいい人に限り笑顔は省略可能。わたしは笑顔、必須だけど。
こうして適切な距離で適切にお話を楽しむ相手には、結構ぽろっと話をしてくれやすい。うんうん、これは情報収集にぴったりだね。そしてついでに、素敵なお姉さまやお兄様とお話できて、わたしもハッピー。完璧だ。
「いいじゃないかヒューバート。これもシオリのいい所だよ」
「兄さん! あなたがそうやって甘やかすからこういう事になるんです!」
「なんか、わたしがアスベルに育てられたみたいな言い方だな……」
「でも、俺はシオリのそういう所も好きだし」
「なっ……!」
アスベルの言葉に、何故かわたしではなくヒューバートさんが顔を真っ赤にさせる。
まあ、急に告白されたみたいだもんね。でもわたしは、アスベルの距離感も覚えてしまったのだ。彼は鈍感だと言われるわりには天然でタラシな部位がある。あいさつ、感謝、相手を褒める、この三点を彼は無意識に完璧におこなっている。ゆえに、わたしの誰とでも仲良くなりたい誰のことも大好き博愛精神を素直にすごい、好ましい、と言えてしまうのだ。
……つまり、ドキドキするだけ無駄なのである。わたしはケラケラと笑った。
「あはは、わたしもアスベルのそういう天然タラシな所、面白くって好きだよ?」
「……もういいです! そろそろ広場に戻りましょう」
あら、笑ったのがいけなかったのだろうか?
まだ顔を赤く染めたまま、ヒューバートさんは付き合いきれないとばかりに早足に歩き去ってしまった。
どうにも、彼はなかなか警戒を解いてくれないようだ。彼も嫌いな人ではないので、ちょっと寂しい物がある。でも仕方ない。これ以上ぐいぐい行くと、逆に警戒を深めるだけだ。
適切な距離感。うんうん、わかっているとも。
「うーん、ヒューバートさんと仲良くなれるのはまだまだ先かな……」
「シオリ、その……」
「大丈夫。みんな、ヒューバートさんが悪い子じゃないってわかってるから」
「……そうか、良かった」