「ここまで来れば、ひとまず大丈夫だとは思うが」
町中にいた兵士達からなんとか逃げて、とりあえず大きく肩で息をする。
ついた場所はどうやら来た場所とは違う入り口らしい。見知らぬ場所だけれど、まあ町を離れることができたので、目的は達成できたということで安心していいだろう。
「これからどうするの?」
「ねぇ、やっぱりアンマルチア族の里へ行かない? 丁度その方向に出て来たし」
シェリアの言葉に提案したパスカルに、反論する人はいない。
敢えて言うならヒューバートさんが少し不満そうな目を向けたが、パスカルはそれをものともせずに彼に近付きその手をぐいぐいと引っ張った。
「寒いけどなかなかいい所だよ、いこっ!」
「ちょっと! 離してください!」
なんだか微笑ましくてくすくす、と思わず笑えば、ヒューバートさんにジロリと睨まれる。そんなに睨まないでよ、と肩を竦めて山を登りだす。
雪山の登山だなんて当然初めてだが、不思議と不安は無い。最近は頭痛も無いみたいだし、余裕がある、というか。アスベルと話したのはわたしにとって随分効果があったみたいだ。恥ずかしいから表立ってお礼なんかは言わないけど。
思い出しているとなんとなく気恥ずかしくなって来て、前の方でシェリアと会話を始めたアスベルから目を逸らす。なんだろう、ちょっと、うーん、変な気持ち。
すると、丁度ソフィがわたしに近付いて来るのが見えた。
「ねぇシオリ、ぬいぐるみ持ってない?」
「ぬいぐるみ? なんで?」
「聞き込みの時に、ララっていう友達が出来たの」
どうやら聞き込みの際に出会った友人の女の子はとても病弱らしく、外に出られなくて退屈なうえに、家族も忙しくてなかなか帰ってこなくて寂しいのだという。せめて少しでも寂しくないように、たくさんぬいぐるみをあげたいのだ……と、わたしを見つめるソフィにきゅんとする。可愛い。
なんて心優しい子なのだ。シェリアたちみんなが、大事に彼女を育てたおかげだね、なんて、よくわからないポジションから言葉が出てくる。
思わずだらしなく緩んでしまった頬を隠す事など出来ないまま、わたしはソフィの頭をそっと撫でた。
「確かパスカルに押し付けられたのがあったから、今度渡すね」
「うん」
「ねぇシオリ! ちょっといいかしら? あのね、少し聞きたい事があるんだけど」
嬉しそうに笑うソフィに和んでいると、今度はシェリアがやってきた。
なんだろう。雪山で下がるテンションをなんとか上げようとしているのだろうか。いっぱいお話しできてわたしはうれしいけれど、みんな元気である。
「どしたのシェリア?」
「シオリはアスベルの事、恋愛感情として好きなの?」
「……雪山って怖いね。なんでそんな話になったの?」
「いいから、答えて」
急に真剣な目で聞いてくるからつい目を逸らしてしまった。
なんでそんな話になったんだろう。なんとなく既視感。そういえばずいぶんと前にもパスカルたちに好きな人はいないのかと聞かれたことがあったなあ。
あの頃からわたしの答えは変わらない。恋愛か恋愛じゃないかの境界線がわからない、だ。わたしはみんなを愛する博愛主義者を自負しているので、そんなこと聞かれてもわからない。
というか、どうしてアスベルって特定の人になったのだ。
「わかんないよ。パスカルやマリクさんにも言ったけど、そこら辺の区別つかないもん。まぁ、好きか嫌いかで聞かれたら好きだけど」
「そう……」
考える素振りをするシェリアに、なんとはなしにため息が漏れる。
わたしはシェリアにライバルとでも思われているんだろうか?