なんとかイノシシの魔物を倒して、息をつく。
いつもより凶暴だったらしいこの魔物は、突然勢い良く突撃してくるので詠唱中のみんなの盾役のわたしも動き回る羽目になりなかなか辛かった。
でも少しだけ前より強くなったかな、なんて思ったり。とりあえずパスカルの様子を見ると、彼女はシェリアに回復してもらいながら、大丈夫、とこちらにウィンクしてみせた。
「危なかったわね……」
「背を見せたら襲って来る……逃げようとしている獲物を追う習性、ですね」
「そっか、だからヒューバートさんだけ追い掛けたんだ」
「パスカル、大丈夫?」
「あ、うん、ちょっと擦りむいただけだよ。平気平気」
問いかけるソフィにひらひらと手を振るパスカルに、彼女は良かったと顔を緩ませる。なんだかんだパスカルの事大好きなんだから、と微笑ましく思えば、それを見ていたヒューバートさんがポツリと声を漏らした。
悔しそうに不可解そうに寄せられた眉と僅かに震える手に、どうやら先程パスカルに庇ってもらった話らしいと推測がつく。
「……どうしてぼくの事を庇ったりしたんですか。あんなにあなたの事を疑ったのに……」
「どうしてって……仲間がピンチだったんだよ?」
あっさり。
何がおかしいのかわからないと答える彼女に、彼は少しだけ面食らう。けれど、その言葉に裏も何もないこと、ちゃんとわかったのだろう。彼はぐっとうつむくと、そのまま頭を下げた。
「仲間……ぼくが油断していたせいで……すみません」
「気にしないで、弟くん」
「なんで……笑えるんですか……あなたも……! もっとぼくを責めても構いませんよ、マリクさん」
悔しそうにマリクさんに当たれば、マリクさんはふむ、と目を閉じて言葉を紡ぐ。
「百戦錬磨の達人でも、一瞬の油断が命取りになることもある」
「そう……ですね」
「……しかし君は、自らの過ちを認める事が出来ている。その素直さがあれば、二度と同じ過ちは繰り返さないだろう」
しかし出た言葉は責める言葉ではない。むしろ教え子にでも対するかのような態度に、ヒューバートさんはまたしても驚きの色を浮かべた。
彼らはもちろん、他のみんなも。誰にも彼を責める気が無い事を知って、明らかにうろたえる。
「教官は俺にもそうやって色々な事を教えてくれましたね」
「ぼくを……責めないんですか」
「自らの過ちを責めているものをさらに責め立てる趣味はないのでな」
「マリクさん……!」
「それに、みな無事だったのだ、よしとしよう。なぁ、パスカル」
「そうそう、問題なしだよ」
そう笑う二人に、彼は少し照れたように目を逸らした。
「でも……それではぼくの気が済みません。借りを作ったままでは嫌なんです」
「う〜ん……それなら……じゃあこのイノシシを里まで運んでもらっちゃおっかな」
「こ、これを担いで行くんですか!?」
「……無理かな? 貴重なタンパク源だからお土産にしたいとこなんだけど」
「かなりデカいよな……このイノシシ……」
「うん、デカい……」
苦戦だってしたのだ。ヒューバートさん一人はもちろん、わたし達全員でも運べるか怪しい。
むしろイノシシの方がわたし達を運ぶ方がずっと自然だ。パスカルもなんとなくそれを理解できたのか、仕方ないかと肩を竦ませる。
「しょうがない。じゃあイノシシの代わりに……今から弟くんとあたしは友達ね!」
「パスカルさん……」
ぶんぶんと手を振って握手をする彼女に対して、ヒューバートさんは一瞬泣きそうに見えた。
まぁ、罰ゲームが友達だなんて、罰ゲームでもなんでもないからね。
わたしもついでに友達に……とは言えない綺麗にまとまった空気の中、パスカルはいつもとなんら変わりなく笑った。
「よっし、里まであと少しだし、急ごう!」