パスカルの部屋は汚い。
ちょっと予想はしていたけれど、思っていた以上に汚かった。
なんか色んな物が倒れたり落ちたりしてるし、通れなくなっている場所とか、いっぱいあるんだけど。それでも彼女曰く片付いている状態らしいので、もう何も言えない。わたしも掃除が得意ってわけじゃないけど……これはちょっと、ね。
そんな中で探したのだから当然な気もするが、この部屋に置いておいた輝石関連の研究資料が、ごっそり無くなっているらしい。
本当にパスカルの技術が使われていたようだ。とにかく長に会って話をしようという事を決めて、わたし達は里の一番奥へと向かった。
「お〜い! ばーさま! いる〜?」
「そんなに大声を出さずともちゃんと聞こえておりますよ」
歩いてきたのは、可愛いらしい、まだ幼い女の子だった。
グラデーションががった長い髪はどこかパスカルに似ていて、彼女もアンマルチア族なのだとすぐにわかる。
まさか、この子がばーさま、なのだろうか。合法ロリがここに来て登場してしまうのだろうか。
ごくりと息をのむと、パスカルはぱっと表情を明るくして、全然違う名前を呼んだ。……彼女はばーさまではないらしい。
「お、ポアソン! 久しぶりじゃない!」
「……パスカル姉様。部外者を里に連れてくるのは困ります。掟破りですよ」
「固い事いいっこなし。ばーさまは奥にいる? ちょっと聞きたい事があってさ」
「ばば様はもうしばらく前から人前で話すのをやめております。ばば様とお話ししたい時は、うちを通してくださいな」
「まああんたは将来の長だし、今からばーさまの代理をやって準備をしておくのもいいかもね。そうそう、あたしたちを英知の蔵に入れて?」
ポアソンと呼ばれた少女は、そのまま大きな扉の向こうにいるらしい長と会話を始める。
しっかりした子だ。合法ロリではなかったけれど、しっかり者の小さい女の子、というのはそれはそれでいい。むしろこの属性からしか得られない栄養がある。いいものだ。
その様子をどこか嬉しそうに見るパスカルも満点。やっぱり小さい子はその成長を喜ぶ周りの大人の視線も合わせて健康にいい。うんうん、姉妹みたいな二人、いいよね。
「英知の蔵ってのは、大昔からのアンマルチア族の記録や知識を蓄えてある、記録庫の事だよ。色々やばい物があるみたいで、前から入ってみたいって思ってるんだけどね」
「パスカル、今が蔵に入るいいチャンスだと思ってるなぁ?」
「くひひ、バレたか」
さすがパスカルだなぁ、なんてよくわからない感心をすると、会話を終えたらしいポアソンちゃんがこちらに戻ってくる。
「ばば様が言うには、英知の蔵は長以外の者は何人たりと入ってはならぬ、だそうですよ」
「だからそれをなんとかしてくれって言ってるの。相変わらず堅いなぁ〜」
「パスカル姉様のほうが柔らかすぎるんですよ」
ごめんパスカル、ここは凄いポアソンちゃんに同意しちゃうよ。
「ポアソン、フェンデル政府が大輝石の実験を進めてんの知ってる?」
「もちろん知ってますよ。それがどうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃなくて。あれ、放っておいたらまずいよ。すぐに実験をやめさせないと」
「うちやばば様の下には全て順調、としか報告されていませんが」
「肝心な事がわかってないって。あれってあたしの昔の研究がまんま使われてる可能性が高いの。でもね、あたしのその研究は途中でやめちゃったの。完成させなかったのよ。原素の抽出までは出来たんだけど、一定出力を超えた時の調整がどうしても制御できなくてさ。大輝石なんかにあの機構をそのまま使ったら、とんでもない事になるかもよ?」
パスカルの言葉にポアソンちゃんは悩む素振りを見せると、再び長との会話に戻る。
どうやら一応確認はしようとしているらしい。一方だけの意見を聞くのではなく、多方面の意見を求める様子は、さすが、といったところだ。
「フェンデル政府のやることに、アンマルチア族が直接口を挟む権利はないそうです」
「だったら、窓口になってるのは誰なのか教えて。そいつから話をつけさせるから。あたしの研究を持ち出したのも、多分そいつだと思うしさ」
「その件を担当しているのはフーリエ姉様です」
フーリエ、と聞いた途端に、パスカルが嬉しそうに笑みを浮かべた。
どうやら知り合いらしく、しかも相当好意を寄せている相手らしい事がわかる。
「あ、お姉ちゃんだったんだ。そうかそうか。なるほど〜。で、お姉ちゃんは今どこ? 里にいるの?」
「しばらく前に里を出て、今は自分の研究所を構えてますよ」
「へ〜そんな事になってたんだ。じゃ、その場所教えて。ちょっと行ってくるから」
ポアソンちゃんから道順を聞くと、どうやらそんなに遠くはないらしい。
同じフェンデル山にあるというのを聞いて、パスカルは少しだけ申し訳なさそうにわたし達を見た。
「てなわけでごめん。あたし、ちょっと研究所に行ってみるね」
「俺たちも行く。ここまで話を聞いた以上放ってはおけない。大輝石の所在を突き止めるのは、リチャードを追う事でもある。だから、俺たちも一緒にそのフーリエさんの所へ行くよ」
即座に答えたアスベルに、パスカルはうんと笑った。
「みんなありがとね。じゃ、出発〜」