「うひゃあ!」
「ど、どうしたんだシオリ?」
研究所に入ってすぐ、ひしっと思わずアスベルにしがみついてしまって、悲鳴みたいな声が勝手に口から飛び出した。
違う、いや、その、わたしだってこれは想定外だ。いやいや、想定、できたかもしれないけれど。わたしは今、美人姉妹のことしか考えてなかったから、心構えがなかったというか。しがみついてしまったことには謝りたいんだけど、それどころじゃない。
「わ、わたし、相手がたとえどんなオヤジでもお兄さんでも少年幼女お姉ちゃん熟女獣人外なんでもいけるよ? 老若男女種族問わずに愛せる自信あるんだよ? でも……」
「でも?」
「無機物だけは無理!」
力いっぱいそう叫ぶ。
研究所には、丸いボディの二足歩行なロボットがたくさんいた。
それはもうたくさん。あちこち。巡回ロボットとか、そんな感じなんだろうな。うんうん、お仕事熱心でいいね。これが獣とか人間ならよかった。ヒューマノイドとか、とにかく生き物の形をしていたらよかった。
なんだあれば。ただの丸いよくわからない物体じゃないか。ああ気味が悪い。のっぺりとした感じも無表情な感じも不気味に見えてしまう。
これが戦車とか自動車とかならまだいい。そういう機械だもんね、ですむ。道具だもんね、そこにデザインとか別についてこなくていいよね、そう割り切れる。
だがああいうタイプはどうにも受け付ける事ができない。だって動くこと前提じゃないか。自立移動する何かじゃないか。それなのに生き物じゃない。なにそれ、わたしは生き物の有機物を愛しているのであって、無機物は範囲外、だ。
そう叫べば、みんな珍しそうにこちらを見て来た。
「アンドロイドとかヒューマノイドならまだしも、ああいう只のロボットは無理! 愛せない! 守備範囲外!」
「そうなのか……シオリにも苦手なタイプがあるんだな」
「くうぅ……隣の魔物ならいいんだけどな……」
ぎゅうぎゅうとアスベルにしがみついて頭を押し付けて、なんとか視線を合わせないように、気を紛らわせようとする。
博愛主義者といえど、さすがに生きてないものまでは愛せないのである。うう、そんなことで博愛主義者を名乗っていいのかと思わないでもないけれど、でもあれって生き物じゃないし。わたしは、生き物を分け隔てなく愛する、博愛精神なので! ロボットは! 守備範囲外! こわい!
あんまり引っ張りすぎて苦しかったのかよくわからないが、少し困ったように頬を染めたアスベルが、わたしへと手を伸ばした。
「……シオリ、だいじょ」
「大丈夫よシオリ。いざとなったら私に抱きついてくれればいいわ。一緒だったら心配ないでしょ?」
「わたしもシオリ、守る」
「シェリア、ソフィ……」
が、ソフィとシェリアが先に手を繋いでくれたので、申し訳ないがアスベルが言おうとした言葉はよく聞こえなかった。
しかし、二人の力強い言葉にきゅん……とする。もうそれだけで胸がいっぱいだ。嬉しい。こんなわたしを見捨てないでくれる。
「シオリ、シオリ、あたしでもいいよ!」
「……流行ってるみたいだから言うが、オレにしがみついても大丈夫だぞ」
「パスカル、マリクさんまで……」
どうしよう、感動してしまう。
うん、やっぱり色々あったけど、こうやってみんなと仲良くなれてよかったな……
まるで最終回のようなな気分になりながらも嬉しくて笑えば、ずっとやり取りを見ていたヒューバートさんがわざとらしく咳払いをした。
「し、仕方ありま」
「シオリ! 大丈夫だ。何があっても、俺が一生ずっと守るから」
ガシッと、わたしの両肩を掴んで真っ直ぐ見つめてきたアスベルに、思わず裏返った声が出そうになる。
……アスベルはよく突然とんでもない事を言うから心臓に悪い。なんでこんなに心臓がバクバクするような事を言うのだろうか。しかも真顔で。
そんなんじゃいつか悪い女にひっかかるわよ……と言いたいのをこらえて、わたしはふにゃりと笑ってみせた。
「……あはは、なんかわたし、凄いモテモテだー。うん、えへへ、みんなと一緒なら大丈夫だね。ありがとう」
嬉しくてたまらない事に嘘はない。
みんなもアスベルも何やら嬉しそうにはにかんでくれるから、わたしはもう大丈夫だと言って先に進む事にした。
ヒューバートさんが呟いた言葉には誰も気付かないまま。
「……乗り遅れた」