104.むかしの、おはなし

帝都へ戻る道のりを歩く間、パスカルはずっとわたしにべったりとくっついていた。
この辺りの魔物にも慣れてきて、全滅を防ぐためにと自分達が戦闘に不参加なのを良いことにずっと、である。
暖かいしうれしいしわたしとしては全然構わないのだが、それを見て同じく待機組だったマリクさんからすれば、ちょっと仲間外れというか、どうしてそうなった、という気持ちの方がほほえましいものよりずっと強いだろう。不思議そうに眉をひそめる彼に、パスカルはのったりとこちらにもたれかかりながら答えた。

「……どうしてそんな状況になっているんだ?」
「だってもう、あたしシオリに惚れちゃったよ〜。ソフィがお嫁に貰ってくれなかったらあたし、シオリにお嫁さんにしてもらう」
「やだパスカル、可愛い事言わないで! いくらでも貰ったげるよ!」

君が望むならいくらでもお嫁さんにもらうよ、とうきうきで答えるけれど、それに対する突っ込みも喜びの声も特にどこからも聞こえない。
代わりにちらりと戦闘中の四人に視線を向けていたマリクさんが、一人何かに納得したようにうなずいた。

「なるほど、ソフィにふられたのか」
「ちょっと教官、そういう事言わないでよ〜」

まあ、その通り。わかってますとも。本命であるソフィはもうデレ期は終了だと言わんばかりに戦闘参加に行ってしまったので、仕方なくわたしのところにいることくらい、ええ、ええ、わかっていますとも。それでもいいのです!
とりあえず乾いた笑いをもらしてから、わたしは話を逸らそうと話題を探す。二人は変な方向に息が合うらしく、放っておくとどちらがより小さな火を出せるか競い始めたりするから、適当な所で変えなければならない。
たぶんマリクさんはワザとなんだろうけどね……

「あ、そうだマリクさん、カーツさんってどんな人なんですか? 随分驚いてたみたいですけど」
「あ、あたしも聞きたい!」
「……そうだな。まだ帝都には時間があるから、話すのもいいかもしれないな」

少しだけ迷っていたようだが、マリクさんは「いい機会」だと小さく笑って空を見た。
相変わらず雪が降る空に遠い昔を見るように、話し始める。

「オレとカーツはフェンデルの士官学校の同期でな。当時盛んだった若手将校による改革運動に共に情熱を燃やしていた。この国は、二十年前からこんな状況だったからな」
「……て事は、改革運動は失敗したって事ですか」
「そうだ。オレがフェンデルを捨てる決意をしたのもそのためだ。命が危ないと思ったからな。だがカーツは残った。命は捨てても志は捨てず。そういう男だよ、アイツは」

少しだけ誇らしそうなそれは、たぶん今でもカーツさんを“親友”だと思っているからなのだろう。
だが、すぐにそれを不安に変えて、マリクさんは首を振った。

「だから……少し不安だな。志を捨てたオレの言葉を聞いてくれるのか。だが会わなければ何も始まらない」
「大丈夫だよ教官! あたし達がついてるしさ。みんなあたしと一緒にいてくれる。だから教官とだってずっと一緒だよ」

そうすぐに答えたパスカルの頭をポンポンと叩いて、「そうだな」と笑う。
……二人とも、さすがだなぁと思った。
明らかに、出会った時よりも強くて素敵な人達になってる。
だから少しだけ、置いてけぼり、だった。