107.まだ選べない、使命

政府塔から出てから、シェリアが呟いてくれるまで、わたしたちは無言だった。
これからどうすればいいのか、マリクさんにどう言えばいいのか……きっと、誰も整理出来ていなかったのだろう。
シェリアも、まずは大輝石の事を話題に上げた。

「大輝石の場所はわかったけど……」
「結局、カーツさんは実験の中止を受け入れてもらえなかったわね……」
「あいつはこの二十年ともいうもの、ずっと戦い続けてきたのだろう。あいつなりのやり方で。それがどれほどの苦労だったか、出来れば応援したかったが……パスカル、カーツはあのように言っていたが……やはり実験は危険なのか?」
「大輝石に含まれる原素の特性にまつわる問題だから、絶対安全って事はないんだよ」
「そうか……」

危険だとわかっているのに、止める事が出来ない。そんな無力感と腹立たしさに悩んでしまう。
わたしは黙ってみんなを見た。誰が、この状況をどうやって打開するのだろうと、どこか人事のように。
……こんな時ばかり、自分は異世界の人間だからと逃げたくなるズルい自分にため息をつきたくなる。

「教官、大輝石の下に向かいましょう。カーツさんの実験を止める為に。それが真実を知っている俺達の責任だと思いますから」
「責任か……」
「次にカーツ氏と会う時は、間違い無く戦いになるでしょう。あなたは彼と戦えるんですか?」
「カーツと、戦う……」

ヒューバートくんの言葉にソフィもうなだれる。
……きっとリチャードの事を考えているのだろうとすぐにわかった。
彼女にとっては友人なのに、戦わなければならない相手。
戦いたくない相手。

「……ぼくたちは今、フェンデルという国そのものを相手にしているも同然なんです。しかもこの数で乗り込むんです。戦力にならない人がいては困ります」
「カーツは今でもオレの友だ。オレのその思いは何があろうと揺らぐ事はない。だからこそ、あいつと戦う事も覚悟の上で、オレはあいつを止めねばならん。それがオレの使命であり、けじめでもあると思っている」
「……わかりました。それだけ聞ければ十分です。先を急ぎましょう」

しばらくの問答の後、歩き始めるみんなからわたしとマリクさんだけが遅れる。
彼は何かを思うように空を見上げて。
わたしは……先程から感じる“焦り”を考えて。

「……使命、か」

わたしには無いもの。
わたしには関係無いもの。
わたしには必要無いもの。
わたし一人だけスタート地点から進めていないような気がして、わたしは僅かに、顔をしかめた。