「カーツさん……死んじゃったの……?」
静まり返ってしまった場で、ソフィがポツリと呟いた。
それはあまりにも単純な事実。だが、誰もが呆然と、動かなくなったカーツさんを見てそれを事実としてようやく認識し始めたところだった。
呆気ない終わり。
さっきまで武器を交え、そして共に願ったのはフェンデルの人間が死んでしまわない事だったというのに、何よりもそれを願った人間が、死んだ。
「もう……会えないの……?」
「ああ……」
「そんな……教官とせっかくまた会えたのに……駄目だよカーツさん、戻って来なきゃ駄目だよ……」
呆然と言葉を返すマリクさんの代わりに座り込んで、カーツさんの体を揺らす。
……ソフィのその行動が、とても胸に痛かった。
マリクさんも、一瞬溢れそうになった涙をこらえてソフィに優しく話しかける。
「ソフィ、もういいんだ。静かに眠らせてやってくれ」
「教官……」
わたしは黙って、ソフィに並んだ。
彼女の頭を片手で抱き寄せて、不安そうにカーツさんを見る彼女を抱き締める。そうしなければ、わたしが泣きそうだった。
結局甘く見てたのだ。今までだっていっぱい戦って、いっぱい戦った相手を覚えて思ったけれど、それでもやっぱり、“死”を甘く見てた。
だってこんなにも胸の奥に重くのしかかって息苦しいそれから、わたしは目を背けていたのだから。
「なっ? なんだあれは!?」
総統の声が響いて、弾かれたようにそちらを見る。
何かが近付いてくる。大きな羽音を立てて現れたのは、リチャードだ。彼が乗っているのは魔物だろう。見たことがない。
マントをはためかせて降りてくる姿は、どこか人間離れしているような恐怖心を感じて息をのむ。
「リチャード……!」
「ようやく見つけたぞ……これで三つ目だ……」
どくん
「ぁぐっ!?」
「シオリ!?」
ぺたり、リチャードが大輝石に触れた途端に、あの頭痛が襲ってきて、その場でうずくまった。
痛い。とても。それでもなんとか目を開ければ、大輝石から溢れ出した光が彼に吸収されていくのを見て、ああ本当にリチャードが大輝石の原素を吸収しているんだとぼんやり思う。
わたしを呼ぶシェリアの声の声がやけに遠い。
頭が痛いのと苦しいのとでぐちゃぐちゃになる。
アスベルがリチャードに向かって行って吹き飛ばされるのが見えた。それに追い討ちをかけるような攻撃も。
でも動けない。
体から力が抜けてガタガタと震えて立っていられなくなる。遠く、晴れた景色でアスベルを庇うように立ちふさがるソフィが見えて、ジクジクと疼くように胸が痛んだ。
こわい。
「貴様……」
「うううううっ!」
気合いを込めた声に、ソフィの体が光り始める。
花畑やラントで見たのと同じ光だ。
みんなが呆然とそれを見る中、わたしの胸はドキドキと鼓動を高めた。
こわい。
「うそ……? ソフィの全身が光ってる……?」
「ソ、フィ……」
「……我と貴様は戦うが運命……か」
「うああ!」
ガタガタガタガタ体が震える。
嫌だこわい。
ソフィがリチャードに向かって行って、武器としてその体を振り下ろす。
リチャードが剣で受け止める。攻撃する。防ぐ。攻撃する。
嫌だこわいよ、“消えてしまう。”
こわいこわいこわいこわいこわい嫌だこわい痛い嫌だ消さないとこわい嫌だ消される嫌だ嫌だ嫌だ!
消さないで。
消さないで、消えたくないよ!
「我は消されぬ! 消されはしないぞ!」
「うあっ!」
「ソフィ!」
リチャードに突き飛ばされて地面を転がったソフィの悲鳴に、ハッと現実に引き戻される。
リチャードは大輝石の原素を吸収し終えており、また魔物に乗ってゆっくりと浮上し始めていた。
「よし……これで残るは……」
ふと、視線が合う。
リチャードは無表情にわたしを見下ろすと、何事かを小さく呟いてそのまま昇って行く。
それはとても小さかったけれど、いやにハッキリとわたしの耳に届いた。
「……思い出す前に……殺せ」