英知の蔵というのは、長の間の地下にあった。
蔵、と呼んではいるけれど、資料や本といった物は一切存在していない。中央に一つ、ウォールブリッジの地下遺跡にあったあの装置が置いてあるだけの部屋だ。
「英知の蔵って図書館みたいな所かと思っていたけど……違ったみたいね」
「考え方は図書館で合ってるよ。記録を残す方法が紙じゃないだけでさ。いや〜この中に入れる日が本当に来るとは思わなかったな〜。さてと、さっそく星の核の事を調べてみようか」
つまりはデータ保存って事だろう。ウォールブリッジの遺跡でも思ったけれど、彼らの技術はとっても不思議だ。
フェンデルの街並みや兵器がわたしの世界のそれとあまり変わらないところを見るに、アンマルチア族の技術というのは、基本的に元の世界の科学にちょっと不思議現象を追加したもの、という感じがする。不思議の有無って大きな違いだけど、そこはまあ、この世界観にぴったりな技術、と思えば納得だ。
「これって、ウォールブリッジの地下遺跡にあったのと似てない?」
「多分、機械的にも同じような物なんでしょ。だったらここを……」
パスカルは慣れた手付きで装置をいじると、中央にまたホログラムみたいな幻を浮かべた。
「な、なんですかこれは! 幻……?」
「透けてる……」
「ん〜と、星の核は……と」
初めて見るそれに驚くヒューバートくんやシェリアを無視して、彼女は次々に幻を浮かべていく。
あまりにも文字送りが早くてわたしには何が何やらまったくわからないのだけれど、彼女は一人納得したように頷いて、なるほどね〜と声を漏らした。
「星の核ってのは確かにあるね。でも大輝石とは別物だけど」
「どう違うんだ?」
「大輝石の大本って考えるのが一番近いと思うよ。最初に星の核で原素が生まれて、それが大輝石や普通の輝石に溜まるみたい。大輝石は星の核から出て来た原素を安定させる働きもあったんだって。へ〜」
となると安定させた状態であの厄介さ、ということになるけれど、火の原素はどれだけ不安定なんだろうか。
「星の核とか大輝石って、自然の物って感じがしないわね。まるで人工的に作られたみたい」
「う〜んシェリアの今の発言、スッゴく鋭いとこついてるかも。あたしもそう思ったんだよね」
「でも……そんな所にリチャードが向かうの?」
原素の製造工場みたいな所を狙ってどうするんだ、と問えば、だからこそだよ、と返される。
「むしろますますビンゴの可能性が高まったと思うよ。リチャードが吸収してたのって、つまりは大輝石の中の原素だったわけだしね」
「リチャード国王が星の核の原素を吸収したら、この世界はどうなるんですか?」
「そうだねぇ、あらゆる原素が枯渇した、死の世界になっちゃうかもね」
「そんな……リチャードはそんな事をするために……?」
そうか、世界中の原素が集中する大輝石という、いわゆるボスの体の部位を倒したのだから、最後は本体を叩くだろう、ということか。その結果推測される状況が彼の目的とイコールになるのだろうかという疑惑はあるけれど、これまでの行動からして、彼が星の核に向かう可能性は高いだろう。
でも、その目的がわからない。死の世界、なんて、彼が望むとは思えない。リチャードは心優しくて、争いのない世界を望んでいたのに、とアスベルはショックを受けたように呟いている。
「星の核に行く方法はあるのか? 世界の中心という事は地面の下にあるのでは?」
「待って、あ〜もう、記録が古くなってて上手く読み取れない……ん、出た。闘技島の近くの孤島に、星の核に通じてる縦穴の入り口があるってさ。他には……ラムダ……」
ラムダ。
なんだろう。前にもその単語を聞いたような気がする。記憶を探っていると、ソフィが強張った声でそれを繰り返した。
それに、ウォールブリッジの地下遺跡でソフィの幻を見た時にもその単語が出て来たのだと思い出す。
「ラムダ……?」
「その言葉、前にも出てきたな。何かわかったのか?」
「人の名前かな? 大昔に今のリチャードみたく大輝石を狙ったみたい。んでこれは……詩かな?」
「詩?」
「フォドラに生まれし災いの種は、三つの光の地に降り立ち、その葉は茂り、光を覆い。フォドラより来たりし災いの葉を枯らす者、三つの光の輝きを守らん……」
「……なにそれ?」
災いの種だの葉だの枯らす者だの……抽象的でわからない。
パスカルと一緒になって首を傾げていると、ソフィが苦しそうに俯いた。
「災いの種……フォドラ……どこかで……」
「ソフィどうしたの? また苦しくなったの?」
「何か……思い出せそうなんだけど……そうすると頭が痛くなるの……」
「ちょっと外の空気を吸いに行こうか。少しは楽になるかも。わたしついてくよ」
その方が落ち着いてスッキリするかも、と言えば、アスベルも頷く。
「頼んだ、シオリ」
「うん、頼まれた」