115.その、予兆

「ソフィ、平気?」
「うん…………災いの種……ラムダ……」

ソフィはたまに、何かを思い出そうとする。
フェンデルに向かう船の中で、思い出す事が不安だと言ったのに。それでも思い出そうとこうやって頑張っている。
わたしにはまだ、ここに来た時の記憶を思い出す兆しすらない。むしろ思い出す事すら最近は忘れているくらいだ。
彼女と比べてずいぶんとお気楽な気がして、なんだか申し訳なくなるけれど……でもやっぱり思い出す事が何故か嫌で、止めてしまう。

───思い出す前に、殺せ。

「……さなくちゃ……?」

思い出す前に、思い出してしまう前に。
何を? 誰を?
誰を殺すのだろう。“わたし”は誰の為に誰を殺さないといけないのだろう。
うなだれるソフィの首が見えて、頭が冷めていくのを感じる。ずっと感じていた疎外感だとか不安だとかが急にわたしの中から消えていって、その細い首しか目に映らなくなる。
手を伸ばす。
掴んで力を込めたら、簡単に死ぬのだろうか。簡単に消えてくれるのだろうか。
わたしは……

「ソフィ、シオリ」
「っ!?」

アスベルの声がして、サッと伸ばしていた手を引っ込めた。
アスベル達が迎えにきたようだ。
ドッドッと嫌に早い鼓動と冷や汗が気持ち悪い。
わたし、わたし?

「二人とも聞いてくれ。これからすぐに孤島に向かう事になった」

わたしは今、何をしようとした?
ソフィに何をしようとした?
わたし、今、ソフィを……
……殺そうとした?

「……シオリ?」
「っあ、うん、今から孤島に向かうんだよね、大丈夫だよ、早く行かないとね」
「……少し顔色が悪いぞ。大輝石の所からずっと調子悪いみたいだが……」
「大丈夫だよ。気にしないで」
「シオリ」

びくり、アスベルに名前を呼ばれて大げさなくらい体が強張った。
……アスベルに強く名前を呼ばれると、なんだか泣きたくなる。
また不安だとか言って寄りかかりたくなる。わたしはそんなに重荷になりたくないのに。
わたしはまだ何も思い出してない。覚悟もしてない。責任も持ってない。
だからダメだ、ダメなんだよ。
寄りかかるのは最後じゃなきゃ。

「……本当に、大丈夫だよ。ありがとうね、アスベル」

そう言ったわたしは、ちゃんと笑えていただろうか。