117.どうして、どうして

「っな……?」
「え……?」

わたしとソフィが同時に戸惑い声をもらした。
わたしとソフィの間で響いた金属音は、今もまだソフィの腕についた武器と、セール品の安い双剣の間とでチャキチャキと小刻みに鳴っている。

……“剣を、振りかざしていた”のだ。
“わたし”が。“ソフィ”に。

自分でも気付かないうちに抜いていた双剣で、彼女を攻撃したのだ。そう、“無意識”に。まるで何かに操られるように。そうすることが役目であるとばかりに。
わたしの体はわたし以外の何かの意志に従うように、わたしの意志とは関係なしにソフィに攻撃を加えていた。

……ないと

「シオリ!?」
「どうしてシオリがソフィに攻撃を……?」

わたしから距離をとるために大きく後ろに跳んだソフィに、けれどわたしの体は勝手に動いて、彼女を追うように地を蹴り、再び剣を繰り出す。
わたしとは思えない素早い動きだ。ううん、わたしが動かしているんじゃない。だってわたし、こんなことしたくない。今も何が起きているのかわからなくて、呆然としている。でも自分でもびっくりするくらい軽い体が、勝手に動いて勝手に彼女を追いかけて、勝手に彼女へ攻撃する。ぞわぞわと得体の知れない恐怖感が肌を粟立たせて、ヒ、と小さく悲鳴が漏れた。
早く誰か止めて。そう思うけれど、みんなも襲いかかってきたリチャードへの対応でこちらに構う事が出来なくなっているようだ。

……まも、らないと
……ころ、さないと
守るために、殺さないと。死なせないために、これを壊さないといけない。なくさなきゃ、どかさなきゃ。殺さなきゃ。誰を? ……ソフィを。

「っやだ……やだ殺したくない! やだ、やだ、逃げてソフィ!」
「くっ……!」

防戦一方で決して攻撃してこないソフィになんだか泣きたくなる。
どうしてわたしはソフィに攻撃しているんだ。
どうしてわたしの体が勝手に動くんだ。
どうしてどうしてどうして。
殺さなきゃ消さなきゃ消されちゃう嫌だ殺さないで。

「シオリ!」
「……っごめんソフィ、ごめんね……!」

遠慮なく攻撃して、と叫んだ。
ソフィの長い髪を掠めて、綺麗なそれが散るのを見て、絶望にも似た思いが込み上げた。ソフィがわたしの相手をしているせいで、みんなが苦戦しているのが見える。
わたしが、わたしが今、みんなを追い詰めているのだ。みんなに迷惑をかけている。止めなきゃ。止まりたい。止まらない。どうしよう、助けて。

「きっとすぐに治っちゃうから、遠慮なんかしないで! 早くリチャードの所に……っ」
「でも、シオリが……」
「お願いだよ、ソフィ!」
「……っ解放します!」

助けを求める様に彼女に懇願すれば、ソフィは何かを振り払うように目を閉じて、わたしをキッと睨んだ。
構える姿勢に、わたしは安心する。
それでも、わたしの体はソフィ目掛けて剣を振るった。

……わたしが守るの、だから殺してあげなきゃ。

「必中必倒! クリティカルブレード!」

物凄い勢いで突進し、そのままの勢いで踵を落とされる。もう痛みかどうかも理解出来ない衝撃が体中に走って、わたしは近くの壁に打ち付けられた。
それでもまだ動いて、わたしを気にしながらもアスベル達の下へ走った彼女を追いそうな体に、わたしは必死に体を動かして、腕に剣を突き刺した。
痛い。痛い。死んでしまいそうだ。怖い。
ああでもよかった。今、ソフィがわたしを攻撃してくれたから、少しだけだけどちゃんと体がわたしのものになった。こうでもしないとソフィを殺してしまいたがる自分を止める事ができないなんて、痛み以上に泣いてしまいそうだったけれど。
これで、いい。いいんだ。
……ごめんね。